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警戒感高まる海運業界、トランプ米大統領の造船再生計画で供給網混乱も

2025年03月10日(月)14時38分

トランプ米大統領が3月4日の施政方針演説で掲げた国内造船業の復活計画を巡って、世界の海運業界で警戒感が高まっている。米カリフォルニア州のオークランド港で6日撮影(2025年 ロイター/Carlos Barria)

Lisa Baertlein

[ロサンゼルス 7日 ロイター] - トランプ米大統領が4日の施政方針演説で掲げた国内造船業の復活計画を巡って、世界の海運業界で警戒感が高まっている。

トランプ氏は衰退した米造船業をてこ入れし中国の海運支配力を弱体化させると表明したものの、業界側は米国の港を利用する際、莫大な料金を押しつけられ、サプライチェーン(供給網)混乱の再発につながる恐れがあると懸念している。

トランプ氏は「米国第一主義」を掲げている。しかし、当初の狙いと真逆の予想外の結果をもたらしかねないのが造船業復活計画だ。

ロイターが6日に確認した大統領令草案によると、米政権は造船業復活の財源確保の一部として、中国製船舶や中国製船舶を含む商船隊が米国の港湾を利用する際に高額料金を課すことを検討している。

定期船業を手がける海運企業団体である世界海運評議会(WSC)によると、米国に寄港する船舶は事実上全てに料金が課され、この影響で米消費者に年間最大300億ドルの負担を強いる可能性がある。また、米国の輸出品の輸送経費を倍増させてしまう恐れもある。

WSCのジョー・クラメック最高経営責任者(CEO)は「政府関係者や議員ら政策担当者は経済に打撃を及ぼす提案を見直し、米産業を支援する代替策を模索しなくてはならない」と述べた。

日系のコンテナ船事業会社オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)のジェレミー・ニクソンCEOは港湾高額利用料について「予想外のもので海運業者やその顧客に大打撃となり得る」と話した。

また、海運企業の経営陣らによると、短期的には船主が港湾利用料の支払いを抑えるため米国の港への寄港を減らす可能性がある。その際、港が大量の貨物で混雑してしまい、輸入品の小売業者や製造業者への配送や、輸出品の船積みが困難になる可能性がある。

こうしたことから、例えば米国から新鮮な牛肉、乳製品、アーモンドを輸出する際に重要な西部カリフォルニア州オークランド港などの小規模港の場合、世界最大のコンテナ船会社MSCが利用を避ける可能性が出てくる。同社のソーレン・トフトCEOはそうした見通しを明らかにしている。

フランスのコンテナ船会社CMA CGMは中国の中遠海運(コスコ・シッピング・ホールディングス)と共同配船などを行う船社間アライアンスを形成しており、米小売り大手ウォルマートを最大の顧客としている。

一方で、CMA CGMは現在、傘下の米コンテナ船会社アメリカンプレジデントラインズ(APL)の商船隊を拡大しようとしているほか、米国内で建造された船舶の保有を模索している。CMA CGMのロドルフ・サアデCEOは7日公開のインタビューで「建造期間と経費がどのぐらいかを造船所数カ所と協議を進めている最中だ」と述べた。

様子見のまま経営判断を表明していない海運大手もある。デンマークのマースクは同日ロイターに「新しい関税や(港湾利用の)料金についてコメントするのは時期尚早。状況全体がめまぐるしく変化しており、(当社の対応は)何も決まっていない」と述べた。

ロイター
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