アングル:自社株買いに改めて脚光、乱調相場で下支え効果に期待
8月14日、企業による自社株買いの動きが改めて脚光を浴びている。自社株買いは昨年からの日本株高基調の一翼を担ってきた。写真は2022年12月、都内で撮影(2024年 ロイター/Issei Kato)
Noriyuki Hirata
[東京 14日 ロイター] - 企業による自社株買いの動きが改めて脚光を浴びている。自社株買いは昨年からの日本株高基調の一翼を担ってきた。株価の下落局面では、低コストで資本効率改善につながる手法として活用が一段と広がるとの思惑もあり、乱調相場の下支え役として期待が高まっている。
自社株買いを発表した企業の株価は好感されるケースが多く、今回の歴史的な下げ相場の中でも、その効果は概ね確認された。
傘下企業の株安が重なったソフトバンクグループなど、別の悪材料で売りが優勢になるケースはあったが、6日に自社株買いを発表したキヤノンは、翌日の朝方に指数がマイナスで推移する中、逆行高で始まり、指数がプラスに転じると一時12%超高に上げ幅を拡大した。
7月31日から8月9日までに自社株買いを発表した約100銘柄の6割超が、不安定な相場環境にありながら翌営業日の株価は買いで反応した。
UBS証券の守屋のぞみ日本株式ストラテジストは、コーポレート・ガバナンス改善の機運の中で、自社株買いなど株主還元が広がる流れは続くとみており「株価調整時にも需給面での下支えとしての効果が期待される」と指摘している。
UBS証券は5日付けリポートで、伊藤忠商事やセブン&アイ・ホールディングス、スズキなど14社について、今後3カ月で自社株買いに動くとみられる企業としてリストアップした。このうち伊藤忠商事は5日、いすゞ自動車は7日の決算発表時に実際に自社株買いに動き、いずれも株高となった。
<株高インパクト、「実質」の浮動株比率が目線に>
株価へのインパクトの面から、自社株買いの規模や発行済み株式総数に対する比率のほか、市場で流通する浮動株の比率も重要となる。銘柄ごとの売買代金とのバランスにもよるが、一般的に、大株主や政府が保有する固定株が多く、浮動株の比率が低い銘柄は、少量の売買でも株価に大きな影響が現れやすいとみられている。
日本株の場合、日銀が大規模緩和の際、上場投資信託(ETF)買いを進めた経緯がある。日銀の保有分は一般的に浮動株の扱いだが、ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは「一部を貸株に出していることを除けば市場に出回っておらず、実質的な固定株とみなすことが可能だろう」と指摘する。
井出氏が6月末時点で、日銀のETF保有を考慮した「実質」の浮動株比率を試算したところ、TOPIX500銘柄のうち低比率の上位には、アコム(13.5%)、日立建機(13.9%)、NTTデータグループ(15.9%)、日本オラクル(18.0%)など中型株に位置づけられるTOPIXミッド400の銘柄が並ぶ。
もっとも、日経平均への寄与度が高いファーストリテイリングは5.1%と、TOPIX500銘柄の中でも同比率の低さが際立つ。中外製薬(19.2%)、LINEヤフー(22.3%)といった、TOPIX100に名を連ねる大型株でも、比率が低い事例が散見される。「これらの銘柄がまとまった規模の自社株買いを実施する場合、指数へのインパクトが大きくなる可能性がある」(井出氏)という。
LINEヤフーは発表の翌営業日が歴史的な急落相場だった5日に当たり、さすがに軟調だったが、下落率は日経平均の12%に対し約3%にとどまった。自社株買いを好感する買いが下支えになったとみられる。
<株安が後押し、追加の自社株枠設定も>
企業にとって株価の調整局面は、株高局面に比べて低コストで自社株買いを実施して資本効率を改善する「好機」でもある。
9日に1日で35件の自社株買いの発表があり「決算シーズンと重なったとはいえ、目を引く多さだった」とフィリップ証券の増沢丈彦・株式部トレーディング・ヘッドは指摘する。とりわけ8日に立会外での自社株買い発表が10件あったことは「極めて稀な多さで、株安とは無縁ではないだろう」とみている。
翌日に立会外で買い付けると発表があった場合、発表日の引け値で買うことになる。先行きの株高を見込めば割安で自社株が買える一方、日をまたぐ間に海外市場でリスクオフが強まるリスクも負うことになるだけに「自社の株価が割安で放置されているとの経営陣によるメッセージと受け止められる」と増沢氏は話している。
安い株価で自社株買いができれば、資金面の余裕につながり得る。ニッセイ基礎研の井出氏は「自社株買いをすでに発表していながらまだ買っていない企業が、急落時に買いに動いた可能性もある。早期に取得株式数の上限に達すれば、追加の自社株枠設定の余地が広がり得る」と指摘している。
◎UBS予想:今後3カ月に自社株買いを発表する可能性がある企業
コード 銘柄 業種
8001.T 伊藤忠商事 卸売業
3382.T セブン&アイHLDG 小売業
7269.T スズキ 輸送用機器
7733.T オリンパス 精密機器
7309.T シマノ 輸送用機器
4507.T 塩野義製薬 医薬品
4523.T エーザイ 医薬品
7202.T いすゞ自動車 輸送用機器
4183.T 三井化学 化学
3281.T GLP投資法人 -
2371.T カカクコム サービス業
6849.T 日本光電工業 電気機器
4516.T 日本新薬 医薬品
4506.T 住友ファーマ 医薬品
出所:UBS証券の資料に基づきロイターが作成。UBSの業種別アナリストの見解に基づいて自社株買いを発表する可能性のあるカバレッジ銘柄を7月9日から20日に集計してハイライトした。
◎TOPIX500企業で「実質」浮動株比率の低い主な銘柄
9983.T ファーストリテイリング 小売業 5.1%
8572.T アコム その他金融業 13.5%
6305.T 日立建機 機械 13.9%
9613.T NTTデータグループ 情報・通信業 15.9%
4716.T 日本オラクル 情報・通信業 18.0%
8439.T 東京センチュリー その他金融業 18.0%
9766.T コナミグループ 情報・通信業 18.6%
4519.T 中外製薬 医薬品 19.2%
3092.T ZOZO 小売業 20.8%
6103.T オークマ 機械 20.9%
4689.T LINEヤフー 情報・通信業 22.3%
2670.T エービーシー・マート 小売業 22.4%
3635.T コーエーテクモホールデ 情報・通信業 22.4%
ィングス
8060.T キヤノンマーケティング 卸売業 22.4%
ジャパン
4733.T オービックビジネスコン 情報・通信業 22.7%
サルタント
4151.T 協和キリン 医薬品 23.5%
9301.T 三菱倉庫 倉庫・運輸関 24.8%
連業
4385.T メルカリ 情報・通信業 25.1%
6857.T アドバンテスト 電気機器 25.7%
8015.T 豊田通商 卸売業 26.2%
6473.T ジェイテクト 機械 26.5%
1721.T コムシスホールディング 建設業 26.6%
ス
9719.T SCSK 情報・通信業 26.9%
出所:ニッセイ基礎研究所の調査に基づきロイター作成。
◎TOPIX100企業で「実質」浮動株比率の低い主な銘柄
コード 銘柄名 業種 実質浮動株率
9983.T ファーストリテイリング 小売業 5.1%
4519.T 中外製薬 医薬品 19.2%
4689.T LINEヤフー 情報・通信業 22.3%
6857.T アドバンテスト 電気機器 25.7%
6902.T デンソー 輸送用機器 29.1%
2413.T エムスリー サービス業 29.4%
8830.T 住友不動産 不動産業 32.0%
9843.T ニトリホールディングス 小売業 32.4%
9984.T ソフトバンクグループ 情報・通信業 32.9%
2914.T 日本たばこ産業 食料品 35.0%
4543.T テルモ 精密機器 35.0%
4661.T オリエンタルランド サービス業 35.3%
9433.T KDDI 情報・通信業 35.4%
6645.T オムロン 電気機器 36.0%
6723.T ルネサスエレクトロニク 電気機器 39.4%
ス
9432.T 日本電信電話 情報・通信業 39.5%
6971.T 京セラ 電気機器 39.6%
9434.T ソフトバンク 情報・通信業 40.0%
6178.T 日本郵政 サービス業 40.2%
7203.T トヨタ自動車 輸送用機器 40.2%
8113.T ユニ・チャーム 化学 40.4%
7201.T 日産自動車 輸送用機器 40.4%
7832.T バンダイナムコホールデ その他製品 41.0%
ィングス
出所:ニッセイ基礎研究所の調査に基づきロイター作成。
(平田紀之 編集:橋本浩)
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