コラム

ウェブで社会を動かす? その強さと脆さ

2019年03月18日(月)15時30分

三つ目は、「選挙/組織」(electoral or institutional)キャパシティである。言論や行動だけではやはり限界があって、 それをどうロビイングや資金調達、政治的駆け引きといったレアル・ポリティークにつなげ、政治的な足場を固めていくかというのが課題となる。スペインのポデモスや、イギリス労働党を復活させた草の根運動モメンタムなどが好例だろうか。オキュパイとティーパーティの明暗が分かれたのも、結局ティーパーティが共和党の予備選に候補者を立て、主流派の候補を続々と破ってディスラプションを起こし、送り込んだ政治家をまとめたフリーダム・コーカスを通じて政治的影響力を確保したのが大きい。

すなわち、オンラインでのプレゼンスという「角」はあくまでシグナルであって、その背後にこれら3つの能力がちゃんとあるんだぞ、ということを示せば、権力側も無視することはできないのである。ゆえに、こうしたキャパシティをどう育て上げるかが勝負になってくるわけだ。個人的には、ナラティヴやディスラプティヴ・キャパシティはもとより、特に選挙や組織化の側面において、情報技術を活用して社会運動を強化する余地がまだ多くあるのではないかと思っている。

権力側はネットでの「戦い方」について急速に学習しつつある

ただ、トゥフェックチーも指摘するように、こうした能力やリソースは実のところ権力側のほうが充実していて、テクノロジーを駆使したネットでの「戦い方」についても急速に学習しつつある。例えば中国政府は、2015年の香港での抗議活動で暴力的な鎮圧を控える一方、カメラ付きのスマホを禁じたが、これはナラティヴを恐れたのである。最近ではやみくもな検閲ではなく、五毛党のように大量の偽情報をばらまいて一般大衆の関心をそらすということもやっている。

このように、ディスラプティヴや選挙/組織的キャパシティが育つ前に、検閲とアルゴリズムとマスメディアのコントロールでアテンション獲得を封じ込めて窒息させる、というのが最近の権力側の定跡になりつつあるが、これにどう対処するかというのが、今後のネット発の社会運動の大きな課題となるだろう。

プロフィール

八田真行

1979年東京生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。一般財団法人知的財産研究所特別研究員を経て、現在駿河台大学経済経営学部准教授。専攻は経営組織論、経営情報論。Debian公式開発者、GNUプロジェクトメンバ、一般社団法人インターネットユーザー協会 (MIAU)発起人・幹事会員。Open Knowledge Foundation Japan発起人。共著に『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、『ソフトウェアの匠』(日経BP社)、共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story