コラム

Facebookとファクトチェックという難問

2019年03月05日(火)15時31分

ザッカーバーグのファクトチェックに関する見方とは ......

個人的には、FacebookのCEO、マーク・ザッカーバーグのファクトチェックに関する見方に興味がある。The Guardianの記事によれば、ザッカーバーグは今後、ファクトチェックをクラウドソーシングしていくことを検討していると語ったらしい。

クラウドソーシングということは、Snopes.comのような専門家集団ではなく、不特定多数の人々にファクトチェックさせるということだろう。おそらく、誰でも自由に開発に参加させることでチェックが行き届き、品質の高いソフトウェアが開発できるという、いわゆるバザール型のオープンソース・ソフトウェア開発の成功が念頭にあるのだと思う。

しかし、安直にファクトチェックへオープンソースの方法論を当てはめるのは、かなり無理があるのではないか。ソフトウェア開発は、厳密に言えば誰もが参加できるというわけではない。

というのも、プログラムコードはプログラミング言語という、我々が普段使っている日本語や英語とは違った人工言語によって、厳密なルールに従って書かねばならず、間違ったコードはどう頑張っても動かない(実行できない)からである。ようするに、普段はあまり意識されないが、機械的な最低限の「足切り」が存在するのだ。ノーベル賞をもらった天才が書こうが間違ったコードは動かないし、小学校中退の人が書いても正しいコードは動く。逆に言えば、これこそが、「誰でも」参加できることを客観的に保証していたのである。

しかし、でたらめなコードは動かない一方、でたらめな文章はそれなりに読めてしまうし、コードのようにでたらめであることを機械的に判定するのも難しい。判定する側に専門的な知識がなければ、信頼性の高いファクトチェックは不可能だろう。

AIによるファクトチェックは有望だが、様々な問題が依然として解決されていないし、ブレイクスルーが無ければ実用化には相当長い年月が必要となるだろう。

IT企業Facebookが行うフェイクニュース対策が我々に与える影響

もちろんWikipediaのように、ファクトチェックを事実上クラウドソースしているプロジェクトはある。Wikipediaはうまくやっているほうだとは思うが、それでも多くのインチキ記事が10年以上放置されることを防げていない

また、最近忘れられがちだが、Wikileaksは元々Wikipedia同様、誰でもリークを検討し、ファクトチェックすることが出来るというコンセプトだった(当初は、誰でも参加できるIRCチャンネルでリークの内容を検討していたものである)。しかしそれはうまく行かず、間もなくWikiは止め、新聞のような伝統的メディアとの協働に舵を切ったのだった。

Facebookは一般にはIT企業というイメージが強いが、次第にメディア企業へと変貌しつつあるとよく言われる。しかし、社内の感覚はまだIT企業のままなのだろう。現時点でフェイクニュース対策に失敗しているということよりも、この認識のギャップが、Facebookの、あるいは我々の今後にとって重要な意味を持つように思えてならない。

ヤフー個人から転載

プロフィール

八田真行

1979年東京生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。一般財団法人知的財産研究所特別研究員を経て、現在駿河台大学経済経営学部准教授。専攻は経営組織論、経営情報論。Debian公式開発者、GNUプロジェクトメンバ、一般社団法人インターネットユーザー協会 (MIAU)発起人・幹事会員。Open Knowledge Foundation Japan発起人。共著に『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、『ソフトウェアの匠』(日経BP社)、共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story