コラム

カマラ・ハリスの大統領選討論会「圧勝」が、もはや無意味な理由

2024年09月25日(水)08時00分
トランプ

当局に拘束されたトランプ暗殺未遂事件の容疑者(9月15日) MARTIN COUNTY SHERIFF'S OFFICEーHANDOUTーREUTERS

<民主党のカマラ・ハリスは大統領選討論会でトランプに文字通り「完勝」した。しかし米社会に静かに広がる分断のせいで、すでにその勝利の意味は薄れつつある>

文字どおりの圧勝だった。9月10日のハリス米副大統領とトランプ前大統領のテレビ討論会は、多数のアメリカ人がハリスに目を向ける最初の機会だった。6700万人の視聴者が見守るなか、準備万端のハリスはどっしりと構え、微笑みを浮かべながらいつもの攻撃的で口汚いトランプの素顔を引き出した。90分間にわたり挑発され続けたトランプは、顔を紅潮させ、次第に大声になり、扇動的な嘘を連発した。

クライマックスは移民をめぐる論戦のなかで、ネオナチグループが広めた嘘をトランプが怒りに任せて叫んだシーンだ。オハイオ州スプリングフィールドのハイチ移民は「犬を食べている。猫を食べている。住民のペットを食べている!」。SNSには瞬時にトランプを嘲笑するミームがあふれ返った。


明らかにハリス陣営は、政策の細部を提示することよりもトランプの悪意と憎悪を際立たせる戦略だった。一部の識者や市民は政策的な中身のなさを嘆いたが、大半はハリスのパフォーマンスを米大統領選討論会史上最も決定的な完勝劇と評価した。

問題は、この勝利にどの程度の意味があるかだ。討論会から1週間後の世論調査は、ハリス支持の高まりを示しているように見える。正式に民主党の大統領候補となった直後の8月に行われた世論調査の支持率はハリス47%、トランプ46%のデッドヒートだったが、討論会後の調査では50%対45%と3ポイント上昇。討論会の評価についても、56%対26%でハリス勝利の見方が上回った。

選挙結果を左右する7つの「激戦州」でもハリスは討論会後に支持を1ポイント伸ばしている。新たな調査結果が出るたびにこの勢いは増す可能性が高いと、専門家はみる(依然として僅差のままだが)。

しかし、大激戦の選挙と社会の分断がもたらした混乱のせいで、既に討論会とその結果が持つ意味は薄れつつある。

討論会の27分後、2億8200万人のフォロワーを持つテイラー・スウィフトがインスタグラムでハリス支持を表明。33万人以上が12時間以内に有権者登録サイトを訪れた(おそらくハリス支持者だろう)。

9月15日には、トランプがフロリダ州の自宅近くでゴルフの最中に、この2カ月で2度目の暗殺未遂事件が発生。シークレットサービスが発砲し、容疑者は逮捕された。数時間以内にトランプと副大統領候補のJ・D・バンス上院議員は、バイデン大統領とハリスが暗殺を扇動したと糾弾した。トランプは「ディープステート(国家内国家)」への攻撃を強め、「それは『内なる敵』と呼ばれている」と言った。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ノルウェー・エクイノール、再生エネ部門で20%人員

ワールド

ロシア・イラク首脳が電話会談 OPECプラスの協調

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を

ビジネス

米ギャップ、売上高見通し引き上げ ホリデー商戦好発
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story