コラム

米政府に潜むキューバのスパイたち......「潜入成功」の3つのポイントとは

2023年12月12日(火)18時22分
キューバ

FBIの覆面捜査官と面談した際のロチャ U.S. DISTRICT COURT/SOUTHERN DISTRICT OF FLORIDAーHANDOUTーREUTERS

<アメリカの元駐ボリビア大使がキューバのスパイとして40年以上活動していたことが最近わかった。なぜ米政府への潜入は成功したのか。3つのポイント>

最近、ビクトル・マヌエル・ロチャ(73)というアメリカの元駐ボリビア大使がキューバのスパイとして40年以上にわたり活動していたとして起訴された。私は米連邦政府で働いていたとき、ロチャと一緒に仕事をした経験はないが、似たような話は見聞きしてきた。

キューバの情報機関は何十年もの間、ロチャの母校である米ジョージタウン大学や私の母校ジョンズ・ホプキンズ大学など、アメリカのエリート外交官養成機関に浸透していた。

40年前、私が大学院で学んでいたときに国際経済学の教員だったケンドール・マイヤーズという人物は、米東海岸のエリート階級出身で、愛想がよく、アメリカを愛しているように思えた。その後、私たちは米情報機関でも一緒に働いた。そのマイヤーズは今、キューバのスパイだったとして仮釈放なしの終身刑を言い渡され刑務所に入っている。

大学院時代の同級生の1人に、アナ・モンテスという物静かな女性がいた。モンテスもアメリカの情報機関で働いたが、やはりキューバのスパイだったとして25年の刑を言い渡された(20年の刑務所暮らしの末に今年釈放された)。

キューバの情報機関は、世界でも指折りの高度な能力を持っているともいわれる。しかし、アメリカの情報機関も優秀だ。ではなぜ、キューバは何十年もの間、米政府内に繰り返しスパイを送り込めているのか。ここで情報機関の手法の種明かしをすることはできない。それでも、キューバがスパイ獲得に成功してきた理由として指摘できる要素が3つある。

■時間 優れた情報機関は、スパイの育成と獲得に途方もなく長い期間をつぎ込む。ロシアは工作員を対象国に送り込んで「普通」の市民として人生を送らせ、いざというときに「活動開始」させる手法で知られている。キューバ政府も南米コロンビア出身のロチャを子供時代にアメリカに送り込み、アメリカで生涯を送らせていたようだ。

FBIなどのテロ対策機関にとって、全く問題を起こさずに生きてきた人物が外国のスパイだと突き止めることは容易でない。このジレンマは日本も無縁ではない。日本社会に、北朝鮮の「スリーパー(潜伏工作員)」が暮らしているという噂は絶えない。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ポーランド、米と約20億ドル相当の防空協定を締結へ

ワールド

トランプ・メディア、「NYSEテキサス」上場を計画

ビジネス

独CPI、3月速報は+2.3% 伸び鈍化で追加利下

ワールド

ロシア、米との協力継続 週内の首脳電話会談の予定な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story