揶揄の標的にされた沖縄──ひろゆき氏発言の考察
更には龍柱を巡って、「龍柱(ドラゴンの頭部)の方角が北京を向いている」とするデマが頒布された。つまり龍柱は翁長県政における「中国への追従・思慕」を象徴するものであるという具合である。結論から言って全部デマである。すでに述べた通り龍柱は沖縄伝統の彫像であり現在の中国とは関係がない。そもそも龍柱は在沖米軍基地敷地内にも作られている。この論法で言うと在沖米軍も中国に恭順している、と解釈できるがそんな馬鹿な話は無い。そもそもなぜ予算を付けてまで龍柱を「中国への追従・思慕」の象徴としなければならないのか。そんなに「中国への追従・思慕」を思うのなら、記者会見などで一言その旨を述べればいいのである。陰謀論は「沼」であり、あらゆる微細な事実に何かの遠大な意図があると解釈する。こんなものを本気にしていてもらちが明かない。
ともあれこの時期、つまり2010年代中葉から後半にはこのようなデマを下敷きとして沖縄を揶揄する書籍が多数刊行された。沖縄は潤沢な地方交付金・交付税を受け取っているのに、日本政府に対して「まだ足りない、もっとよこせ、などと主張している」―という間違った沖縄揶揄本が多数刊行された。
代表的なところでは『沖縄を本当に愛してくれるのなら県民にエサを与えないでください』(惠隆之介,渡邉哲也著,ビジネス社,2017年)、『新・沖縄ノート 沖縄よ、甘えるな!』(惠隆之介著,WAC,2015年)などである。
面と向かって罵倒するまではいかないが、揶揄するのであれば沖縄が最適──。こういった風潮がおおむね2010年代中葉に確実に形成されている。冒頭のひろゆき氏が前掲の書籍などを読んでいるかどうかは知らないが、その言動の背景にはこうしたネット右翼やそれに付属する保守系言論人の「沖縄揶揄」が強力にある。彼らの沖縄揶揄が継続されてきたので、「沖縄であれば茶化してもOK」という空気が生まれたのだ。空気というのは恐ろしいものである。このように在日特権から始まったネット右翼の攻撃目標は、一瞬だけ北海道に行ったがやがて大きく南方にシフトして現在に至っている。
ヘイトスピーチ解消法の盲点を突く──「沖縄なら馬鹿にしてもOK、訴訟リスクが少ないし!!」
しかしその「沖縄であれば茶化してもOK」という空気も一朝一夕に形成されたのではない。まずネット右翼の金科玉条であった「在日特権」の衰退理由であるが、いくら探してもそんなものは無かった―という理由以上に、とりわけ2010年代においてヘイトスピーチに対する厳罰化が事実上行われたことにある。ありもしない「在日特権」を主張する右派系民間団体は、次々と名誉棄損等で訴えられ、裁判所から多額の賠償金命令が確定した。個人のレベルでも名誉棄損で民事事件になり、ヘイトスピーチを行った側は社会的制裁を受ける例が続発したのである。
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