コラム

「体育座りは体に悪い」という記事でもっと気になったこと

2022年05月13日(金)15時33分

1990年代は、現在では考えられないが、精神疾患に対する差別と無知と偏見が熾烈だった。そもそも現在一般的となっているパニック障害という言葉は広く普及しておらず、不安神経症(ないしは単に不安症)という言葉の方が一般的であった。また精神疾患を理由に何かに参加できない、と訴えても、「どうせ怠けているのだ」「さぼりたい口実だ」と断定され、事情を考慮せず垂直的にネガティブな評価が下る時代だった。そもそも精神科や心療内科を受診すること自体に差別感情があった。それが証拠に私の両親は、私がいくら病状を訴えて精神科に行きたいといっても、「(精神科に行けば)古谷家の家名に傷がつく」と一瞥に唾棄し、健康保険証を家のどこかに隠し、私の精神科通院を全力で阻止するという、現在で考えれば異様ともいえる差別感情むき出しの行動をとった始末だったのである。これは現代で考えれば歴とした児童への虐待であり、重大な人権への挑戦、蹂躙とみなさなければならない。このことを私は現在でも恨みに思っており、これが遠因で後年両親と絶縁する道を選んだのであった(2022年5月現在にあっても、本件にあって私の両親は正当化を繰り返しており、謝罪なし)。

いかにさぼるか考え抜いた

さて全校集会に参加し、体育座りで教員の精神訓話を聴くことは確かに退屈だが、寝ていればよい、という当時の学童からして一般的とも言えたやり過ごし方が私には通用しない。発作が起こると感覚が暴走してとても寝られる状況になく、寧ろ感覚が鋭敏になって失神しそうになるほど苦しい(患者によっては本当に失神する場合もある)。これがパニック障害の典型的発作様態である。よって私は、この全校集会をどう乗り越えたらよいのか悩みに悩んだ末、集会中はトイレに隠れることにした。大便室に隠れて、集会が終わると何食わぬ顔でクラスメートの後尾に紛れることで事なきを得ようとしたが、このような姑息な(一時しのぎの意)手段がそう何回も通用するはずもなく、古典を担当するHという教員から「貴様ぁ、毎回いつまでう〇こしておるのかぁ」と大目玉を食らった(このHは、私の病態を「さぼりたいがための虚言である」と初期には決めつけて徹底的に説教をした)。

当然この「不祥事」は担任に通報され、その時私は平謝りに謝ったが、依然として私が体育館にいけない状況はまるで変わらず、とうとうパニック障害を打ち明けた。担任側との交渉は難航した。すでに書いた通り、精神疾患で何かに参加できない学童がいる、という世界観が教員側にないのが1990年代の一般的な学校現場における実情であった。しかもパニック障害はまだまだ大衆に認知されていなかったのだ。しかし私は根が自己主張の塊にできているので、退学も辞さぬ一歩も引かない態度で交渉し、なんとか全校集会とそれにかかわる一切は保健室で待機することを認めさせた。こうやって私は高校を卒業することができたのである。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story