コラム

高市早苗氏はなぜ敗北したか―ネット保守の過激すぎる応援がアダに

2021年10月01日(金)21時42分
高市早苗

自民党総裁選に出馬し、敗れた高市早苗(9月18日、外国員特派員協会での候補者討論会で) Eugene Hoshiko/Reuters

<高市氏は一時期、岸田氏を猛追して2位も視野に入ると期待された。それが結局敗れたのは、暴走したネット保守の支持が党員・党友票の離反を招いたせいだ。高市氏は、不幸なことに自らの支持者によって、最大のチャンスをつかみ損ねたのだ>

『親方想いの主倒し』──親方のためと思って弟子やその周辺が熱心にやったことが、結果として親方に不利になってしまうという言葉である。今次2021年自民党総裁選挙で、健闘したものの第一回投票で3位に終わり、敗北した高市早苗氏の敗退原因を一言で述べればこれに尽きる。総裁選公示前から強固な保守層やネット保守から熱狂的な支持を集めた高市氏は、なぜ敗北するに至ったのか。その原因を探る。

1】厳然たる敗北

今次総裁選のふたを開けてみれば、当初優勢とされた河野太郎氏が後半になって失速し、第一回投票(議員票+党員票)の総合計で僅かだが岸田文雄氏に逆転されたことは、大方の予想を裏切った格好であった。ともあれ河野氏の第一回投票における党員・党友票は169票(44%)と突出しており、今後も一定の影響力を保つとみられる。

他方、「台風の目」とされた高市早苗氏は安倍晋三前総理から全面的な支持を取り付け、議員票では114票を獲得して2位となった。しかし党員・党友票では74票(19%)にとどまり、事前予測の下限程度に滞留した(都道府県別でも、得票1位は地元・奈良だけであった)。この結果は今後の不安材料として残るが、高市氏の奮闘により一定程度、今後も存在感を保つものとみられる。だが、高市氏が第一回目の投票で3位になり、一時期2位争いも射程に入ったと報道されただけに、決選投票に行けなかったことは高市氏にとって揺るがない手痛い事実であり、敗北は動かせない。

党員・党友票=有権者の感覚に近いとは必ずしも言えないものの、当初期待されたほど高市氏は党員・党友票に浸潤しないまま終わった。高市氏を全面支援した安倍氏の影響力の衰微にも、一定関与することは否めない。

高市氏への強固な保守層やネット保守界隈からの熱狂的支持は、2021年8月10日発売の『文藝春秋』(2021年9月号)で事実上の総裁選出馬を披歴するとの報道がなされて以降に怒涛の如く開始された。それまで、彼らは稲田朋美氏に絶大なる期待を抱いていたが、2020年に稲田氏が「選択的夫婦別姓」を容認し、LGBTの権利擁護に熱心な動きを見せると、とりわけネット保守は稲田氏に失望し、その代わりに高市氏支持に切り替えた(詳細は、拙稿"高市早苗氏の政策・世界観を分析する―「保守」か「右翼」か"21.9.9,参照のこと)。

2】河野批判と常にセットで行われた高市支持の盲点

高市氏を支持するネット保守は、高市氏のタカ派的政策を安倍政権の正統なる後継と見做し絶賛した。これは問題ないにしても、その支持の特徴としては、常に「河野氏への批判・攻撃」とセットで行われていた点である

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日製副会長、4月1日に米商務長官と面会=報道

ワールド

米国務長官、4月2─4日にブリュッセル訪問 NAT

ワールド

トランプ氏「フーシ派攻撃継続」、航行の脅威でなくな

ワールド

日中韓、米関税への共同対応で合意 中国国営メディア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story