コラム

岸田から次期総裁への置き土産「憲法改正」は総選挙に向けた「裏金問題」隠しか

2024年09月11日(水)13時53分

しかし来るべき総選挙の争点は、普通に考えれば自民党の裏金問題だろう。岸田首相が事実上の辞任に追い込まれた原因であるし、自民党の内部調査と処分、さらに政治資金をめぐる改革が、まったく不十分なまま今国会が終了してしまったことについて世論の不満が大きいことは、各種調査で明らかになっている。

自民党の総裁選候補者たちが、この政治資金改革についてどこまで徹底できるかは不透明だ。自民党は「THE MATCH」という総裁選を宣伝するポスターを作成した。「日本の未来と「マッチング」する新しいリーダーは誰なのか?」という意図でつくられているが、そのデザインでは安倍元首相を中心に据えるなど、これまでの自民党の刷新というより継続を印象付けようとしている。お笑い芸人のプチ鹿島氏も述べる通り、自民党は「刷新感」は出したいが「刷新」はしたくないようにみえる。

総裁選の候補者では、小林鷹之前経済安保相のように、安倍派議員の要職起用を主張している人物もいる。一方、これまで組織的な裏金形成はなかったとされてきた麻生派で裏金がつくられていたことが最近発覚したこともあり、小泉進次郎氏のように、政策活動費の廃止や旧文通費の透明化に言及する候補も出てきている。

総選挙の大義名分化

しかし、このタイミングで政治資金改革について述べ出した総裁候補たちを本当に信用できるのか。小泉進次郎元環境相は裏金議員の公認について「厳正に判断」すると述べたが、歯切れが悪い。そもそも自民党が裏金議員だと認めた人数は報道よりも少なく、処分相当だとみなされた人数は更にそれよりも少ない。この判断を覆して、100人近くの議員を非公認にすることは現実的ではない。

総選挙になれば、野党勢力は政治資金パーティーの禁止などより強い政策を掲げてこの問題を追及することになることは確実だ。もし裏金問題が主要争点化すれば、誰が総裁になっても守勢を強いられることは明らかだ。どう弁明したところで、裏金議員を公認しているじゃないか、ということになるからだ。自民党としては、それは避けたいはずだ。

事実上の総裁選が始まって以降、自民党の支持率は回復傾向にある。その理由はメディアで毎日主要候補の報道がなされることで「総裁選ジャック」が生じているからだという。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米関税に「断固たる対抗措置」、中国国営TVが短文サ

ビジネス

米2月PCE価格+2.5%、予想と一致 スタグフレ

ワールド

米加首脳が電話会談、トランプ氏「生産的」 カーニー

ワールド

ウクライナ、過去の米軍事支援を「ローン」と見なさず
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story