コラム

都知事選、蓮舫候補の「二重国籍」問題の事実関係を改めて検証する

2024年06月20日(木)14時26分

しかしそうであるならば、法務省は改めて国籍選択をさせる必要すらなかったはずだ。台湾籍の存在を認めないのならば、1985年の時点で蓮舫氏は既に日本国籍のみしか保持していなかったことになるのだから。法学者の奥田安弘は当時、蓮舫氏の「二重国籍」問題についての説明義務は蓮舫氏ではなく法務省にあると述べていた。

法務省が蓮舫氏に改めて国籍選択宣言をさせたことで、攻撃者たちは、蓮舫氏は2017年までは日本国籍を持っていなかったという曲解を行い、さらにバッシングを強めた。「二重国籍」問題を悪化させた原因の一つには、この法務省の態度および中国と台湾をめぐる複雑な外交問題があった。


 

当時の蓮舫氏の発言を振り返ると、確かに時系列や事実認識の面で不正確な部分が多かったように思える。しかしここまでみてきたように、その理由は問題の複雑さや、手続きを行ったのが30年以上前だったこと、手続きを行ったのが本人ではなかったことを考えれば、仕方なかったといえる。

蓮舫氏がダブルルーツを誇りにしていることは民族マイノリティとして当然で、ダイバーシティの観点からもそうした政治家は世界でも珍しくない。

もちろん蓮舫氏が東京都知事として相応しいかは選挙民の選択となる。しかし蓮舫氏をめぐる差別的な陰謀論は、この都知事選を機に終止符を打つべきときだろう。


20241210issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年12月10日号(12月3日発売)は「サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦」特集。地域から地球を救う11のチャレンジとJO1のメンバーが語る「環境のためにできること」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ユナイテッドヘルスケアのCEO、マンハッタンで銃

ビジネス

米11月ADP民間雇用、14.6万人増 予想わずか

ワールド

仏大統領、内閣不信任可決なら速やかに新首相を任命へ

ワールド

ロシア大統領、政府と中銀に協調行動要請 インフレ抑
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求可決、6時間余で事態収束へ
  • 4
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 5
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 6
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 7
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 8
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない…
  • 9
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 10
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story