コラム

【能登半島地震】正義ぶった自粛警察が災害救助の足を引っ張る

2024年02月01日(木)11時45分

山本太郎議員は1月17日に会見を開き、この件について釈明した。山本議員もまた、ボランティア団体との連携のうえで現地入りしており、炊き出しのカレーも被災者やスタッフが食べ終わったあとの残りものを、すすめられたので頂いたということだった。食事を共にするというのは、現地の人々と本音で語り合う手段の一つでもある。そもそも国会議員が被災地を視察するのは普通のことであり、原則的には批判されることではない。もちろん大名行列のようにお供をぞろぞろ連れて回り、忙しい現地自治体に余計な手間をかけてしまうのならば迷惑だろうが、今回の山本議員のケースでは、そのような行動は確認されていない。


ボランティアにも自粛圧力

被災地を支援する際、被災地のリソースを消費するなどしてかえって被災地に負担をかけてはいけないのは当然であり、災害ボランティア活動の大原則であるのは言うまでもない。しかしその原則が独り歩きして、個別の事情を顧みることなく、少しでも被災地に負担をかけたとみなされるやいないなや、SNSで過剰に攻撃されてしまうという現象が生じている。たとえば炊き出しのカレーをたった一杯だけ食べるようなことでさえ、猛烈に叩かれてしまうのだ。

コロナ禍で、外出制限がかかる中、様々な事情により制限に従うことができない人たちを見つけては攻撃する「自粛警察」が問題になった。能登地震でも、SNSでは「被災地に入って混乱を招いている素人」という虚像を血眼になって探している「警察」たちがみられる。しかし災害支援活動に対する「自粛警察」は、少なからず市民による災害支援活動の萎縮を招き、かえって救助や支援の迅速性や効率性を損なうかもしれない。

アメリカのノンフィクション作家レベッカ・ソルニットによれば、大きな事故や災害が起こった際、人々はパニックに陥るという直感に反して、互いに協力し助け合う「災害ユートピア」が生じる(『災害ユートピア なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか』高月園子訳、亜紀書房 (2010年))という。一方、政府は人々を信頼できず過度に統制しようとするので、そのような人々の連帯を邪魔してしまうというのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story