コラム

自民党はなぜ杉田水脈議員の暴走を止めないのか

2023年11月23日(木)20時57分

しかし当の杉田水脈議員は、一連の差別発言について反省する素振りすら見せず、X等で差別を煽るような投稿を繰り返している。その副作用として、SNSを中心に杉田議員の差別発言を擁護する動きが発生しており、そのことによりマイノリティへのヘイトが再生産されるという悪循環が生じている。


たとえば、「在日特権」というデマがある。日本にいる在日コリアンは、様々な優遇措置を国や地方から受けているというもので、10年ほど前「在日特権を許さない市民の会(在特会)」という排外主義団体が繰り返し主張してヘイトデモを繰り返したことで話題になった。「在日特権」の存在は様々な専門家により否定されており、たとえば比較的早期に在特会を取材したジャーナリスト、安田浩一氏の著書『ネットと愛国』でも、「在日特権」と呼ばれる数々のことはデマあるいは「特権」と呼べる代物ではないと示されている。。安田氏は2016年にヘイトスピーチ解消法が成立した際にも、テレビ番組で「在日特権」は存在しないという言質を自民党議員からとっている。

「在日特権」デマは在特会の衰退もあり、近年ではほとんど聞かれなくなった。しかし共同通信が過去に杉田議員が「在日特権」について言及していたことを記事にし、その記事について杉田議員が「言論の自由」と開き直ったことで、再びこのデマがネットで復活しようとしている。

このヘイトスピーチの再生産を止めるには、暴走している本人はともかく、所属政党である自民党が何らかの処分を下すことが必要だろう。本人の意志に反して衆議院議員を辞職させることはできないとしても、離党させることなどは出来る。しかし自民党はまだ、杉田議員に対する対応を何も示していない。

問題の根源は歴史修正主義

なぜ自民党は「人権侵犯」認定をされた杉田議員に対して何も対応しようとしないのか。そもそもこうした差別発言を繰り返してきた杉田議員が、なぜ今なお自民党の議員を続けていられるのか。いや、このような疑問を持つこと自体が間違っているのかもしれない。なぜなら、上述のような差別発言を繰り替えしてきた人格こそが、自民党が杉田議員をスカウトした理由と思われるからだ。

「人権侵犯」認定をされた先述の在日コリアン及びアイヌに対するヘイトスピーチは、2016年にスイスで開かれた国連女性差別撤廃委員会に、当時議員落選中の杉田氏が参加したときに行われたものだ。杉田氏がこの委員会に行ったのは、日本軍「慰安婦」問題について、「慰安婦」の性奴隷性の事実を否定するためだった。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story