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ドイツも苦しむ極右監視と人権のジレンマ
モーラーの弟子で現在の「新右翼」のフィクサーとされるゲッツ・クビチェクに後援されていたのが、AfDの極右グループ「翼」の指導者ビョルン・ヘッケだ。彼は「翼」の解散後も、2019年州議会選挙で躍進したテューリンゲン州の党代表として精力的に活動している。
ヘッケは党内の民族至上主義を代表するだけでなく、ベルリンのホロコースト記念碑を「恥の記憶」と呼んでユダヤ人迫害の記憶の継承に反対し、またホロコースト否定を「表現の自由」として擁護するなど反ユダヤ主義的な人物でもある。しかし、彼の問題発言について党はせいぜい「懲戒」処分を下すのみで、彼の勢力を排除することはできなかった。
裁判所による措置の差し止めとその影響
憲法擁護庁は逮捕権・捜査権のような警察権力を持たない。しかし、いかに極右的な志向を持つ政党だろうと、国家の側が事実上その活動に圧力をかけることについては、最大限の慎重さが求められる。
AfDはこの措置に対して、当然ながら裁判所に異議申し立てを行った。これを受けてケルンの行政裁判所は、一政党の政治的機会を奪うには十分な検討がなされていないとして、憲法擁護庁による監視措置を当面の間差し止めた。
党の監視が明らかになった直後は、今年予定されている総選挙への影響が懸念されていた。しかしこの裁判所の判断によって、むしろAfDに追い風が吹く可能性もある。難民問題が国家的トピックであった2019年までと比べて、2020年以降はコロナウイルスへの対応が国家の最重要課題となっている。他の国の極右ポピュリズム政党がそうであるように、AfDはコロナウイルスの被害を過小評価し、感染拡大を抑制するためのロックダウンやマスク義務化に否定的であった。その方針はあまり支持を集められず、党勢は伸び悩んでいた。しかし今後の支持率がどうなるか予測するのは難しくなった。
「戦う民主主義」のむずかしさ
ドイツでは、この憲法擁護庁の決定および裁判所の判断について各メディアで議論が巻き起こっている。ナチスによって民主国家を内側から切り崩された経験を持つドイツにとって、自由と民主をいかに維持するかは政治的に敏感な問題なのだ。
ドイツに限らず、民主主義がそれを否定する勢力によって破壊される危険性はどの国でも常に存在する。日本の憲法秩序は「戦う民主主義」を採用していないとされている。しかし、1948年に出版された、「文部省著作教科書」である『民主主義』の中では、こうした「民主主義の落とし穴」への警告がなされていた。ほととぎすの托卵を例に出し、民主主義というシステムは、多様性を尊重するがゆえに反民主主義的な勢力をも育成してしまい、民主主義そのものを崩壊させてしまう可能性があるので、国民はその危険性に注意せよと説いている。
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