コラム

微生物から大量のタンパク質、砂漠で北極で生産可... 代替食品はここまできた

2021年12月07日(火)11時30分

代替食品の中で、近年、最も成長したものは「代替肉」です。植物性、培養肉、微生物によるものの3種類あります。このうち、培養肉はまだ研究段階で、市場には出回っていません。「代替肉=タンパク質源」と捉えて、広義では昆虫食も含める場合もあります。

代替肉には100年以上の歴史があります。

コーンフレークの米ケロッグ社の創業者でもあるジョン・ハーベイ・ケロッグ博士は、菜食主義者でした。そこで、小麦に含まれるグルテンと牛乳に含まれるカゼインを使って食肉に似せた香りと硬さの食品を開発し、1907 年に特許を取得しました。

大豆ミートは、米国の化学者ロバート・アレン・ボイヤーが開発したとされています。大豆タンパクで肉の食感に近いものを作って1954 年に特許を取得。もっとも、味や見た目は代替肉とは言い難いものだったので、普及は進みませんでした。

同じ頃、日本でも大豆ミートの開発が行われました。食品加工会社の不二製油は、1956年から大豆ミートの開発を始め、1969年には肉に近い食感の「フジニック」を発売しました。現在も、ファストフードやコンビニの大豆ミート食品の一部には同社の製品が使われており、国内シェア1位となっています。

大豆ミートの近年の躍進は、2019年8月にFDA(米国食品医薬局)が「原料の『大豆レグヘモグロビン』は火を通していない状態でも安全だ」と認可したため、一般人がスーパーで生の状態で買えるようになったことがきっかけです。ビル・ゲイツも出資している米インポッシブルフーズ社は「インポッシブル・バーガーを何個食べると、温室効果ガスをどれだけ削減できるか」の計算ツールをホームページに置くなど、環境への配慮を前面に出して大豆ミートをPRしました。

日本でも2019年から20年に食品・食肉大手企業の参入が相次ぎ、20年8月にはネクストミーツ社が世界初の焼肉代替肉「カルビ1.0」「ハラミ1.0」をリリースしました。21年8月には、消費者庁が代替肉の表示ルールを定めました。日本能率協会総合研究所は、2019年度に15億円だった大豆ミートの市場規模は、2025年度には40億円になると推定しています。

微生物から大量のタンパク質を作る

映画『ソイレント・グリーン』の世界観に最も近い代替肉は「微生物由来」です。

独マックス・プランク分子植物生理学研究所のドリアン・レガー氏の研究グループは今年6月、「微生物から大量のタンパク質パウダーを作る方法」について米科学アカデミー紀要に発表しました。

この方法では、空気中の二酸化炭素を微生物のエサとして用いたり、太陽光エネルギーを用いて水を電気分解したりタンパク質パウダーに加工したりします。レガ―氏らは、「微生物タンパク質の生産は、二酸化炭素の大量排出や水質汚染のリスクがある畜産、森林破壊のリスクがある大豆の作付けと比べて地球環境に優しい。しかも肥沃な土地を必要としないので、場所を選ばない」と利点を説明します。研究グループの計算によると、従来の農業で大豆を作る場合と比較して、単位面積あたりのタンパク質の収量は10倍以上になると言います。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ドイツ予算委、500億ユーロ超の防衛契約承認 過去

ビジネス

「空飛ぶタクシー」の米ジョビ―、生産能力倍増へ 

ビジネス

ドイツ経済、26年は国内主導の回復に転換へ=IMK

ワールド

豪首相、ヘイトスピーチ対策強化を約束 ボンダイビー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story