コラム

微生物から大量のタンパク質、砂漠で北極で生産可... 代替食品はここまできた

2021年12月07日(火)11時30分
大豆ミート

代替肉には100年以上の歴史がある(写真はイメージです) Rocky89-iStock

<タンパク質の摂取意識の高まりや、健康的というイメージが浸透したことで、日本でも植物性代替食品市場は10年で約5倍に。微生物由来の代替肉をはじめ、国内外の「新しい食品」について概観する>

未来社会を描いた映画は数多くありますが、ピンポイントで〇〇年と設定されている作品は希少です。そんな中、来たる2022年を舞台に人口爆発による食料事情を描いたディストピア(ユートピアの反対語で暗鬱とした世界観を持つ)映画があります。『ソイレント・グリーン』(1973年、米)です。

この映画は、米SF作家ハリイ・ハリスンの『人間がいっぱい』(ハヤカワ文庫)を原作にしています。

2022年、人口の爆発的な増加と環境汚染に悩まされるニューヨークは、ごく一部の特権階級と多くの貧困層から成り立っています。肉や野菜といった天然の食料品は希少で高価なものとなり、特権階級しか口にできません。ほとんどの人間は、ソイレント社が海洋のプランクトンから作る代替食品の配給を受けて細々と暮らしているという設定です。ちなみに「ソイレント」は、大豆(soybean)とレンズ豆(Lentil)を連想させる造語です。

映画には驚くべき展開が待ち受けていますが、それはご自身で確かめていただくとして、現実世界での「新しい食品」の最新状況を概観してみましょう。

「コピー食品」から「タンパク質危機の打開策」に

近年は「代替食品」が注目を集めています。

代替食品とは、他の食材に似せて、別の食材を用いて作った加工食品のことです。

かつては「カニ風味のかまぼこ」「人工イクラ」など、まねをする元の食材が高価、希少であるために作られることが大半でした。なので「コピー食品」とも呼ばれていました。

最近は、菜食主義やアレルギー疾患、健康志向の方のために作られたり、地球環境への配慮や人類のタンパク質必要量を賄えなくなる「タンパク質危機」の打開のために開発されたりする事例が増えました。そこで、代替食品とは、「肉や乳製品など、本来は動物性の食品を植物由来の原料で置きかえたもの」と認識されることが多くなりました。

TPCマーケティングリサーチの調査によると、世界の植物性代替食品市場(大豆ミート、豆乳など)は、環境・人口問題への関心やヴィーガン(菜食主義者)の増加などが要因となって、2019年度で約1兆円の規模となりました。日本では、タンパク質の摂取意識の高まりや、植物性は健康的というイメージが浸透していることから植物性代替食品の需要が高まり、2010年度の48億円から2020年度(予想)は246億円と10年で約5倍に市場が拡大しました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story