コラム

桜散る甲州街道 「俗界富士」が見える町へ

2019年05月09日(木)13時40分

◆「日本三奇橋」に立ち寄る

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この旅で初めて立ち寄った観光名所、猿橋=山梨県大月市

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猿橋は、四層のはねぎによって橋脚を使わずに支えられた大変珍しい構造の橋である

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「日本三奇橋」に数えられる猿橋の入り口=山梨県大月市

「団地」がある丘を下って国道20号沿いの旧市街に出ると、観光名所の「猿橋」がある。「錦帯橋」(山口県岩国市)「木曽の桟(かけはし)」(長野県上松町)と並ぶ"日本三奇橋"の一つである。「日常を体感する」のをテーマとしているこの旅では、進んで名所旧跡・お祭りなどのイベントには立ち寄らないのがモットーではあるが、さりとて、意図的に避ける理由もない。

日本三奇橋は、江戸時代に特に構造が珍しい橋を指して言ったもので、愛本橋(富山県黒部市・現存せず)、神橋(栃木県日光市)、かずら橋(徳島県三好市)を数えている場合もある。猿橋の構造は奇橋と言われるだけあって大変珍しく、「長さ30.9m、幅3.3m、高さ31mのその姿は、橋脚を全く使わない特殊なもので鋭くそびえたつ両岸から張り出した四層のはねぎによって支えられています」(大月市観光協会HPより)とのことだ。

猿橋は何度も架け替えられており、現在の橋は、1851年(嘉永4年)のものをモデルに1984年に復元したものだ。また、この猿橋を挟むように、国道20号と県道上の2本の「新猿橋」があり、車はそちらを通るようになっている。江戸の三奇橋と言いながら昭和に再建されたものと聞いてがっかりするか、それとも、それを含めて歴史的な感慨を深めるか。先日、火事で焼け落ちてしまったパリのノートルダム大聖堂についても、たとえ忠実に復元できたとしても、既に歴史的価値は失われていると言う人もいる。僕は今の猿橋で十分に感慨に耽ることができたが、これから時代が進むにつれ、文化遺産・歴史遺産に対する考え方も変えていかなければならないかもしれない。

◆ニュータウンから旧市街の中心部へ

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猿橋の町で出会った柴犬=山梨県大月市

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この日は散りゆく桜と畑の耕起の季節だった=山梨県大月市

前回立ち寄った『コモアしおつ』や、今回猿橋の手前で立ち寄った丘の上の「団地」もそうなのだが、僕はどうも、日本の田舎に突如現れるニュータウンが好きなようである。決してそういう所に住みたいと思っているわけでも、心の故郷になるような体験もないので、理由はよく分からない。手つかずの自然を素晴らしいと思う一方で、よく整備された都市公園に自然にはない芸術性を感じる感性が影響しているのかもしれない。今回もまた、吸い寄せられるように、地図上に発見したニュータウンに立ち寄ってしまった。

猿橋の町を見下ろす丘に広がるそのニュータウンには、『パストラルびゅう桂台』という名前がついている。隣の上野原市の『コモアしおつ』から6年遅れて1997年に分譲が開始された。標高差110mという丘の上まで、つづら折りの道路を徒歩で息を切らせながら登ったのだが、後で調べると猿橋駅と町を繋ぐエレベーターがあるそうだ(知っていたら利用したのに)。

さらには、かつては、斜面を上がるモノレールもあったが、運行トラブルが相次ぎ2006年に廃止されたという。現在の交通手段はエレベーターとマイカー、本数の少ない路線バスということになるが、徒歩では急坂を20分くらい上った。お年寄りにはかなりきついだろう。全国には同様の「丘の上のニュータウン」が数多くあるが、アクセスの面で高齢化に対応できるかどうかが、生き残りの鍵の一つだと言えそうだ。僕は当然、下界へは再び徒歩で戻ったが、行きも帰りも他に歩いている人は誰もいなかった。

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吸い寄せられるように訪れたニュータウン『パストラルびゅう桂台』=山梨県大月市

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丘の上の『パストラルびゅう桂台』を大月の旧市街方面から望む=山梨県大月市

桂台の丘を下りてから1時間ほど歩き、大月市街の中心部に抜けると、大月駅の背景に鉄塔や電線の向こうにそびえる"俗界富士"が見えてきた。そして、車を停めていた駅前のコインパーキングでゴール。次回は、山梨県を東西に分断する笹子峠の手前まで進む予定だ。

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大月駅の背後に姿を現した「俗界富士」=山梨県大月市

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今回歩いた梁川駅--大月駅前のコース:YAMAP活動日記

今回の行程:梁川駅--大月駅前(https://yamap.com/activities/3438825
・歩行距離=16.5km
・歩行時間=7時間45分
・高低差=164m
・累積上り/下り=536m/449m

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

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