最新記事

日米同盟

安倍晋三は「顔の見えない日本」の地位を引き上げた

The Abe Era Ends, Cheering China, Concerning Washington

2020年9月1日(火)14時00分
マイケル・オースリン(スタンフォード大学フーバー研究所)

歴史には、トランプを積極的に受け入れた人間と記憶されるだろう(2017年2月、ホワイトハウスで) Jim Bourg-REUTERS

<中国にとっては嫌な指導者、アメリカにとっては安心できる指導者だった安倍晋三を惜しむ>

たまたまだったのだろうが、日本の安倍晋三首相が辞意を表明したのは、連続在任日数が最長を記録したのと同じ週だった。

安倍は2007年にも首相の座を1度、下りているが、今回も辞任理由は前回と同じ持病の潰瘍性大腸炎だ。安倍は2012年に首相に返り咲いて以降、支持率の急落や低迷を続ける経済、森友学園への国有地売却を巡るスキャンダルなどにも関わらず、日本政界のトップに君臨するとともに、首相として10年近く、アメリカのゆるぎない盟友であり続けてきた。米中の地政学的競争がヒートアップする中でそうしたパートナーを失うことはアメリカ政府にとって深い懸念材料だ。

安倍の後継が誰になるのか、日本政治が停滞もしくは不安定な状態に戻ってしまうのか、次の首相に安倍ほど強力な外交・防衛政策があるのかといった点は、日本のみならず同盟国にとってもライバル諸国にとっても重要な問題だ。

安倍以前の日本はボロボロだった

安倍が首相に返り咲き、日本政界に君臨するようになって8年足らず、当時の日本がどれほどボロボロだったかを思い出すのはもはや難しい。安倍が2007年に首相の職を辞してから、自民党が政権を失った期間をはさみ、 5人以上の首相が就任しては1年かそこらで交代するという時期が続いた。第1次安倍政権は失敗に終わったものの、安倍はそこから蘇り、1970~80年代の田中角栄や中曽根康弘以来の日本政界における大物となった。

デフレに終止符を打つための2%のインフレ目標といった「アベノミクス」で掲げた目標の多くは達成できなかった。だが一方で環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉に参加し、最終的には主導的役割を果たした他、法人税の減税や、電子機器など重要分野における規制緩和、外国人労働者の増加や、女性の活躍の促進(いわゆる『ウーマノミクス』)など、さまざまな面で新たな地平を切り開きもした。

経済政策が国際標準から見れば比較的、地味な印象なのに対し、安倍が戦後のいかなる首相よりも踏み込んだのは外交・安全保障政策だった。伝統的な軍隊の保有を禁じた日本憲法第9条の改正を求めたり、日本の戦争責任の解釈の一部に疑義を唱えているように見られたことで強い批判も浴びた。

だが一方で安倍は、第二次大戦における日本の役割についてこれまで以上に明確な謝罪をし、真珠湾を公式訪問したし、訪日したバラク・オバマ米大統領(当時)を広島に迎え入れもした。

<参考記事>安倍首相の辞任表明に対する海外の反応は?
<参考記事>安倍政権の7年8カ月の間に日本人は堕落した

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー

ワールド

焦点:中国農村住民の過酷な老後、わずかな年金で死ぬ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの文化」をジョージア人と分かち合った日

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中