最新記事

ペット

犬連れ参拝客に人気の神社が「ペット連れ禁止」の苦渋の決断

2019年6月24日(月)17時30分
内村コースケ

「させないの工夫」と失敗した時の「バックアッププラン」

MJ050.jpg

今回の訪問で唯一見かけた残念なシーン

神社の声明にもあるように、この日も大半の人がマナーをしっかり守っているように見えた。ただ、残念なことに、境内の立派な杉の木にマーキングさせているのを一度だけ見てしまった。こうした糞尿の問題は禁止措置の核心に当たるので、川原さんに具体的に解説してもらおう。

「マーキングをしないようにしつけるのは、去勢をしていなければ難しいです。ですので、一緒に出歩くなら去勢(メスの場合は避妊。マーキング対策だけでなく、健康管理面などからも多くのしつけの専門家や獣医は勧めている)が大前提になります。それでも、犬は放っておいたらマーキングをしたがりますから、飼い主がそれに付き合わないことが大切です。しつけるというより、飼い主の歩き方の問題。『あっちの臭いをかぐの?』って一緒に行っちゃたら、そこでマーキングするのは分かりきっていますよね?なので、付き合わずにまっすぐ歩く。それで犬が諦めたら、褒めてあげます」

排泄の方のおしっこ・うんちについては、現地に着く前に差し支えのない場所でさせておくのが望ましい。「それでも生理現象ですから、万が一しちゃったら、流せるような地面ならば水で流す。アスファルトなど水を流しても単に薄まって広がってしまうような場所なら、トイレシーツでなるべく尿を吸収して、水で流して、さらにもう一度吸収するくらいのことはしてほしいと思います」

なるべく外出先で周囲に迷惑をかけないようするためには、犬がよくしつけられているのが理想だ。とはいえ、「しつけのプロではないから、そんなに完璧にはできない」という飼い主が大半であろう。

「外に一緒に連れていくからには、自分の子供でも犬でも、最低限のお出かけマナーを身に着けていたほうが、自分も周りの人も気持ちよく過ごせると思います。でも、ロボットではないから完璧にはできませんし、不測の事態もあるのが当然です。絶対に完璧に仕上げてからお出かけしましょう、ということではなくて、できるだけお家で練習して、お出かけにチャレンジするくらいの気持ちがあれば良いのではないでしょうか」と川原さん。

そのうえで、「ワーストケース・シナリオではありませんが、先ほどのトイレのケースのように、不測の事態を予想して、『こうなってしまったらこうする』というバックアッププランも用意しておいてほしいと思います」と語る。

MJ054.jpg

境内などに入る前に、トイレシーツの上で排泄を済ませておくのも有効な方法だ

「犬を飼っている人は皆同じ船に乗っている」

国際経験豊富な川原さんも指摘することだが、海外の宗教施設は、ほぼ例外なくペットの入場は禁止されている。一方、日本の神社仏閣、特に神社は、これまでの三峯神社のように、入場が黙認されていたり、ペットのお祓いまでしてくれるペットフレンドリーな神社も散見される。神道の根幹にある自然信仰も関係していると思うが、「境内」の捉え方の問題もありそうだ。

「ドイツでは、ほとんどの公共の場所に犬が入れますが、食べ物を扱うスーパーやパン屋さん、そして教会は入れません。神聖な場所であると同時に建屋の中だから、それは受け入れやすいと思います。でも、神社の境内って屋外ですよね。外の散歩の延長という意識が飼い主の側にあるような気がします」と川原さん。神社側から見れば、鳥居の内側の「境内」は、教会の建物の中と同列である。神社の存在が身近すぎるが故に、我々日本人はそこを理解しきれていないのかもしれない。

「禁止されていないから、入場OKだから、マナー違反も許される」と考えるのは言語道断だが、逆に杓子定規に「とにかく犬はダメ」と拒絶するのも、三重県の商店街で最近話題になった、公道に飛び出した看板を実力行使で撤去する「正論おじさん」の騒動ではないが、生きにくい世の中を自ら作ることにつながりかねない。

「どういうふうにしたら許されるか、という話ではありません。一人ひとりが歩み寄ることで、『ああやってマナーを守ってくれているのだったら、ワンちゃんが一緒に出てきてもいいな』と、気持ちよく受け入れてくれるような社会になってほしいと思います。ここで起きたことは、自分がやったことが返ってきて、自分の権利を狭めてしまったようなもの。犬を飼っている人は皆で同じ船に乗っているようなものだということ、そして、自分たちが悪いことをしたらその影響は自分に返ってくるということを再認識したいですね」(川原さん)

MJ013.jpg

川原さんと愛犬のヒューゴ

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

GDP1─3月期は年率2.0%減、内需に弱さ 特殊

ワールド

オランダ、極右含めた連立政権樹立で合意 下院選から

ビジネス

世界の社債デフォルト件数、4月は3年半ぶり高水準=

ワールド

ゼレンスキー氏、外遊中止 ロシアはウクライナ東部と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中