最新記事

人権問題

ミャンマー、ロヒンギャ迫害取材の記者2人釈放 大統領恩赦はスー・チー苦肉の策か

2019年5月7日(火)16時48分
大塚智彦(PanAsiaNews)

国家機密法に違反したとして有罪判決を受け収監されていたワ・ロン記者(33、左)とチョー・ソウ・ウー記者(29、右)が自由の身となった。(2019年 ロイター/Ann Wang)

<国際的な人道問題となったミャンマーでのロヒンギャ族迫害。その取材をしていた現地記者が不当逮捕され服役していたが、急転直下で釈放となった>

ミャンマーのウィン・ミン大統領は5月7日、国家機密法違反で禁固7年の実刑判決を受けて服役中だったロイター通信のミャンマー人記者2人へ恩赦を与え、2人は即時釈放された。背景にはアウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相が進める民主化政策の真価を問う国際世論や人権団体などによる批判が影響したものとみられている。

恩赦の決定を受けて釈放されたのはロイター通信ヤンゴン支局のワ・ロン記者(33)とチョー・ソウ・ウー記者(29)。2記者は服役していたミャンマー中心都市ヤンゴン郊外のインセイン刑務所を出所。取材中のロイターのカメラマンに笑顔で手を振って釈放の喜びを表したという。ロイターがいち早く伝えたほか、各国の主要報道機関が相次いで報じている。

2記者は2017年8月にミャンマー西部ラカイン州で少数イスラム教徒ラカイン族の住民10人が治安部隊によって殺害された事件を精力的に取材していた。

ところが同年12月12日に警察官に呼び出されて書類を手渡された直後に別の警察官によって「国家機密に関する書類を違法に所持していた」として国家機密法違反容疑で逮捕、起訴されていた。

2記者や所属するロイター通信は一貫して無罪を主張し「真実の報道を沈黙させるための警察のでっちあげであり、私たちはその犠牲者である」「無罪を証明するために可能な限りのことを行って釈放を目指す」などとして公判に臨んでいた。

警察官の内部告発も証拠採用されず

ところが2018年4月20日の予審で検察側の証人として出廷した現職の警察官が「2人の逮捕は警察が仕組んだもの。2人に書類を渡した後、逮捕するように警察幹部から命令された。逮捕しないとお前が刑務所に行くことになると脅された」と衝撃的な証言を行った。

こうした検察側に圧倒的に不利な証言が予審で出たにも関わらず、裁判所は裁判を継続。この警察官の証言を有力な冤罪、そして無罪の証拠としては採用せず、2018年9月3日に禁固7年の有罪判決を下した。

警察の暗部を告発するともいえるこの重要な証言を行った警察官は、その後警察に身柄を拘束され、官舎に住んでいた家族も追い出されたなどの報道があったが、その後消息に関する一切の情報が途絶えており、安否が気遣われているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国自動車輸出、4月は過去最高 国内販売は減少に減

ワールド

UNRWA本部、イスラエル住民の放火で閉鎖 事務局

ワールド

Xは豪州の法律無視できず、刃物事件動画訴訟で規制当

ビジネス

ドイツ住宅建設業者、半数が受注不足 値下げの動きも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 4

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 7

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中