北朝鮮を狙う経済開発勢力図
もちろん、開城(ケソン)工業団地を復活させることは喫緊の課題だろう。
アメリカは
さて、アメリカだが、<北が米朝蜜月を狙う理由――投資競争はすでに始まっている>に書いたように、金正恩委員長は既にトランプ大統領に、北朝鮮が完全かつ迅速な非核化に乗り出す代わりに、まずはアメリカ独自の金融制裁の解除を求め、金正恩肝いりの元山(ウォンサン)観光地のカジノ事業などへの投資を要請した。トランプ大統領がカジノ好きであることを研究し尽くしているのだろう。
元山は金正恩の祖父であり北朝鮮の創設者である金日成(キム・イルソン)が、建国のために旧ソ連から落下傘部隊として上陸した港である。それもあるのか、元山への思い入れはひとしおで、金正恩経済の目玉としている。
一方、トランプ大統領は「アメリカはお金をあまり出さない」と言っており、これでは米朝が親密になっても対中牽制にはならないだろうと考えてしまうかもしれない。しかしトランプ大統領が言った「アメリカ」は「アメリカ政府」のことで、民間企業にまで「出させない」とは言っていない。
もっとも、これも北の非核化プロセスが明確になってからの話となろうが、中露は既に警戒態勢に入っている。
習近平国家主席、プーチン大統領に「友誼勲章」
6月8日午後、習近平国家主席は人民大会堂の「金色の大ホール」で、プーチン大統領に中華人民共和国の初めての「友誼勲章」を授与した。あまりに華麗であまりに厳かに執り行われたその式典に関して、元中国政府高官は筆者に「アメリカが、そうさせたのさ」と苦笑いをした。「追い込んだのだ」と解釈してもいいだろう。
6月10日午後、金正恩委員長はシンガポール飛行場に降り立ったが、搭乗していた飛行機は中国国際航空のボーイング747型機。中国はこういったところにチャイナ・マネーを注ぎ込んで金正恩委員長を中国側に向かせようと必死だ。
裏を返せば、トランプ大統領が北朝鮮をカードとして使い対中牽制をしていることが効を奏している何よりの証拠と言えるのかもしれない。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。