最新記事

米政権

トランプの人種差別政策が日本に向けられる日

2017年1月31日(火)17時41分
譚璐美(作家、慶應義塾大学文学部訪問教授)

Steve Dipaola-REUTERS

<全米各地で抗議行動を呼んでいる中東・アフリカ7カ国からの入国拒否。トランプ政権は「テロ対策」というが、アメリカの歴史を振り返れば、日本人や中国人も安心してはいられない> (写真はデモが行われているポートランド国際空港に到着した警官隊、1月29日)

 1月29日夜、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、フロリダなど、アメリカの30以上の都市と国際空港で数千人の市民による激しい抗議行動が起きた。

 トランプ大統領がテロ対策のために中東やアフリカの7カ国(シリア、スーダン、イラン、イラク、ソマリア、イエメン、スーダン)の国民に対して3カ月間の入国禁止と、難民の受け入れを一時停止する大統領令に署名したため、アメリカへ航空機で到着したイスラム系の人々が次々に空港で入国を拒否され、拘束される事態が起こった。

 この措置に反発したアメリカ市民たちが、全国各地で怒りの声を上げたのだ。拘留された人は約170人にのぼり、家族に会いに来た老夫婦や中年女性、妊婦、子供もいて、グリーンカード(アメリカの永住権)保持者も含まれていた。

 世界各国の空港にも波紋が広がった。すでに発行されているアメリカ入国ビザが取り消されたことで、航空機への搭乗を拒否される人が続出している。

 ニューヨークのケネディ国際空港の建物の外では、氷点下のなか、段ボールのボードに走り書きしたプラカードを掲げて抗議する人々が「難民を歓迎します」、「アメリカ人はみな移民だ!」、「家族を釈放して!」とシュプレヒコールを叫んで、ピザを食べながら拘束された人たちの釈放を待ちわびていた。

【参考記事】トランプvsアメリカが始まった?──イスラム教徒入国禁止令の合憲性をめぐって

 ホワイトハウスは火消しに躍起になった。報道官は「イスラム教徒を排除する目的ではない」、「あくまでもテロ対策を強化するためのものである」と釈明したが、すでにトランプ大統領と敵対するようになっていたメディアは、全米各地で激しく燃え上がる抗議行動の様子を逐一報道した。

 アメリカ15州と首都ワシントンの司法長官は合同で声明を発表し、「この大統領令は憲法違反の疑いがあり、裁判の場で明らかになることを確信している」として、提訴の準備に入った。

 数時間後、テキサス州、ニューヨーク州などで、州法による特別措置で拘束者は次々に釈放され、アメリカ政府は事態の沈静化に努めたが、いったん燃え上がった抗議行動は、そう簡単に収まることはないだろう。

 アメリカ人の怒りは本物だと、私は直感した。彼ら自身が深く傷ついている。市民もテレビのキャスターも、上院議員ですら、口々に自分の出自を言いつのり、移民した祖先の苦労を思って涙する。今回の大統領令は、いわばアメリカ人の「魂」にグサリとナイフを突き立てたようなものなのだ。

トランプ就任前から強硬策は始まっていた

 アメリカ政府のこうした強硬策は、なにもトランプ大統領の就任以後に突如はじまったものではない。2015年11月のパリ同時攻撃を受けて、2016年1月21日からすでに「テロリスト渡航防止法」が施行されている。

 同法では、日本国籍を含む世界中の人々のビザ免除プログラムを改定し、2011年3月1日以降にイラン、イラク、スーダンまたはシリアに渡航または滞在したことがある者(公務、人道支援、報道等の目的による渡航に対しては個別に審査された後に免除される可能性がある)は、大使館や領事館にビザを申請し、面接を受けなければならないことになった。

 また、ビザ免除プログラム参加国の国籍と、イラン、イラク、スーダンまたはシリアのいずれかの国籍を有する二重国籍者は、現在有効なESTA渡航認証を保有している場合でも、認証が取り消されることになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

シンガポールGDP、第3四半期は前年比5.4%増に

ビジネス

伊藤忠、西松建設の筆頭株主に 株式買い増しで

ビジネス

英消費者信頼感、11月は3カ月ぶり高水準 消費意欲

ワールド

トランプ氏、米学校選択制を拡大へ 私学奨学金への税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中