最新記事

科学

テレビが男の精子を殺す?

視聴時間が精子の数に影響するという新研究

2013年3月7日(木)15時53分
トレバー・バターワース

真犯人? テレビを毎週20時間以上見る男性は精子が4割以上も少なかった Robert Adrian Hillman-Alamy/Aflo

 先進国に住む男性の精子が減っていることに、研究者たちは20年ほど前から気をもんでいた。

 昨年末の研究でも、この事実に警鐘が鳴らされた。35歳のフランス人男性の精子数は、89年には1ミリリットル当たり平均7360万個だったのに、05年には4990万個に減っていたという。

 人類の種としての生存を脅かすような数字ではない(その心配は1ミリリットル当たり1500万個を下回ってからでいい)。ただしパパになるのは難しくなるから、望ましい傾向ではない。

 問題は原因が分からないことだ。高脂肪の食事、肥満、環境ホルモンなどが調べられたが、これまで確証は得られなかった。

 そんななか、学術誌のブリティッシュ・ジャーナル・オブ・スポーツ・メディスンに発表された論文が新たな有力容疑者を明らかにした。テレビである。

「週20時間以上テレビを見る男性は、ほとんど見ない男性より精子が44%少なかった」と、筆者の1人であるオードリー・ガスキンズ(ハーバード大学公衆衛生学大学院博士課程)は言う。「しかも軽めのものからきつめのものまで、運動を週に15時間以上行う男性は、5時間未満の男性より精子が73%多かった」

 テレビの影響は研究チームにも「驚きだった」と、ガスキンズは言う。被験者は18〜22歳の若くて健康な男性ばかりだったし、ほぼ全員がWHO(世界保健機関)の定める正常範囲の精子数も持っていた。

 被験者には食生活についても聞き、「加工食派」と「健康食派」に分けて比較した。すると精子数の差は食生活の違いによるものではないことが分かった。「今回の結果は食事や肥満度、喫煙とは無関係だと考えられる」と、ガスキンズは言う。

 反響は上々だ。「素晴らしい論文だ」と、ルイジアナ州立大学教授(予防医学)のティム・チャーチは言う。「体を動かすと血行が促される、精神に良い、自律神経のバランスが良くなる、または単に健康全般に良いなど、この研究結果が納得できる理由はたくさんある」

 チャーチはさらに付け加える。「被験者が30歳なら、もっと大変な結果が出るだろう。ダメージの蓄積した時間が長いから」

 その点は1〜2年で分かる。ガスキンズはもっと年上の男性を対象に追跡研究を始めている。

[2013年3月 5日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中