最新記事

イギリス

「鉄の男」キャメロンの超緊縮改革

2010年10月21日(木)16時10分
ウィリアム・アンダーヒル(ロンドン支局)

 保守党は自民党を尊重し、選挙制度改革では11年に国民投票を実施すると約束した。結果次第で、2大政党に有利な現在の単純小選挙区制から比例代表並立制に変わるかもしれない。代わりに自民党は、保守党の主張する緊急の歳出削減策を支持している。

 キャメロンと自民党のニック・クレッグ党首は共に43歳。裕福な家庭に育つなど共通点も多い。彼らの親密な友情は、男性の同性愛を描いた映画『ブロークバック・マウンテン』になぞらえて「ブロークバック連立内閣」とも揶揄される。

 キャメロンにはサッチャーになかったものがある。政治家として周囲を不快にさせない人格だ。自信にあふれる姿は、不器用だったゴードン・ブラウン前首相の後とあって特に歓迎された。

 首相官邸でかんしゃくを起こしたとか、夜遅くに閣僚におかしな電話をかけたという噂はもう聞かない。官邸関係者によると、新しいボスは正規の勤務時間を尊重し、時々自ら子供を学校まで送っていくという。

 最大の変化は、キャメロンが首相の座にありながら余裕を感じさせることだ。「遠大な影響をもたらすような方策を考えていても、イデオロギー的にも偏向的にも見えない」と、元保守党調査部長で現在は調査会社ポピュラスの理事を務めるリック・ナイは言う。
 
 皮肉なことに、キャメロンの野望はサッチャーより大きいかもしれない。彼は「倹約」以上のことをやろうとしている──国民と政府の関係そのものを改革しようというのだ。

 キャメロンに言わせれば、国家の存在が大き過ぎるために、個人の責任感がむしばまれてきた。キャメロンは、個人が自分の人生に責任を持ち、周囲も手助けするような社会に戻したいと考えている。「人は責任を取る自由を与えられたら、自分で物事をやり遂げるようになって新しい活力を得るだろう」と、彼は言う。

 具体的には、さまざまなことを変えて権力を分散させる。例えば薬物依存のリハビリ施設などの分野で民間部門の役割を広げ、成果主義の報酬制度を導入する。英国内の大学の学費に年間5000ドルの上限を設けるといった、政府による甘やかしも切り捨てることになるだろう。

 意味のある予算削減は、最初は必ず評判が悪いものだ。ならばいっそのこと、継続的な変化を生むような改革を行えばいい。最も痛みを伴う部分が早く終われば、次の選挙までに国民が痛みを忘れる時間の余裕ができる。その頃には「大きな社会」の基礎が築かれているだろう。これなら、「鉄の女」にも異論はないはずだ。

[2010年9月29日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、フーシ派に大規模攻撃 商船攻撃に強硬措置

ワールド

米政権、41カ国の入国制限を検討 イラン・北朝鮮は

ワールド

米つなぎ予算成立、トランプ氏署名 政府機関閉鎖目前

ワールド

ガザ北部などで空爆、11人死亡 停戦発効後の死者1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 2
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴された陸上選手「私の苦痛にも配慮すべき」
  • 3
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ?
  • 4
    中国中部で5000年前の「初期の君主」の墓を発見...先…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「天然ガス」の産出量が多い国は…
  • 6
    エジプト最古のピラミッド建設に「エレベーター」が…
  • 7
    自然の中を90分歩くだけで「うつ」が減少...おススメ…
  • 8
    鈍器で殺され、バラバラに解体され、一部を食べられ…
  • 9
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 10
    ピアニスト角野隼斗の音を作る、調律師の知られざる…
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 3
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 4
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 5
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 8
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 9
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 10
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中