米住宅市場「回復」の落とし穴
差し押さえの減少や住宅価格の安定の裏には政府や銀行のトリックが。現実にはかつてない勢いでローン延滞者が急増している
回復は見掛け倒し アメリカでは住宅不況は終わったという楽観論が広がっているが(写真は1月、ロサンゼルスの建設現場) Lucy Nicholson-Reuters
3月下旬、米財務省は住宅ローンの借り手を支援する新たな差し押さえ防止計画を発表した。だが、1年ほど前に施行された住宅ローン支援プログラムと同じく、今回の住宅市場へのテコ入れも失敗に終わる可能性が高い。
この計画は、焦げ付きそうな住宅ローンの元本部分を貸し手が削減(つまり債権放棄)し、住宅の実勢価格に見合う額の新たなローンを借り手に提供することが前提となっている。債権を一部放棄する代わり、新たなローンは連邦政府が保証する。
だが住宅ローン危機が深刻だった地域では特に、そんな前提は夢物語でしかない。たとえば、住宅価格が全盛期から45%下落したマイアミや40%近く下落したサンディエゴ、住宅バブル絶頂期の半額以下になってしまったフェニックスやラスベガスなどで政府の提案通りにしようとすれば、金融機関は元本を半減させなければならない。金融機関がそんな大幅な削減に応じるはずがないし、政府にも強制力はない。
明るいデータに潜む不都合な真実
今回の差し押さえ防止プログラムは、住宅対策の根底に流れる疑問をあらためて検証するいい機会だ。住宅不況は本当に終わったのかという疑問だ。
一言でいえば、答えはノー。最近、住宅市場の先行きについて明るい話がよく聞かれるが、現実は最悪の状態にある。差し押さえ防止プログラムが失敗するであろう理由の一つもそこにあるのだが、金融機関も政治家もこの期に及んで尚、現実を直視しようとしない。
不思議に聞こえる? 確かに不動産関連のニュースを見る限り、シャンパンの栓を抜いて住宅危機の終焉を祝う時が来たように思える。全米不動産協会の最新の報告書には、「不動産価格の安定」「堅調な住宅価格」「一貫した価格上昇」といった安心できる言葉が並んでいる。
抵当銀行協会の主任エコノミストも、「ローン滞納と差し押さえの空前の大波が収束し始めているようだ」と宣言している。つまり住宅価格は上昇し、差し押さえは減っており(注:この点については後述する)、楽観的になっていい理由はふんだんにある、とされている。
だが、住宅市場の「回復」には不都合な真実が隠されている。
フロリダやカリフォルニア、ネバダ、アリゾナのように住宅危機がとりわけ深刻で、差し押さえが集中していた州では、ある重要な数字が回復していない。それは、ローン延滞者の割合。信じられないかもしれないが、その数はかつてない勢いで急増している。
カリフォルニアの例を見てみよう。抵当銀行協会によれば、2009年の第1四半期に金融機関が差し押さえた物件は全担保物件の2.15%(約50件に1件)だったが、第4四半期には1.34%と、かなり減少した。
不動産価格が安定してみえるカラクリ
ただしこの数字を見て、住宅ローンを払い続けられる人が増えたと判断するのは早い。新たな差し押さえ件数が減少した一方で、ローンの延滞者数は全ローン利用者の4.75%から6.93%へと45%近く増えている。
なぜか。金融機関は担保物件を差し押さえる代わりに、ローンの延滞を認めているのだ。その背景には、差し押さえ件数を減らしたい政府の圧力や、低迷する不動産市場で差し押さえ物件を売ることを躊躇する金融機関の思惑が重なっている。
つまり、これは差し押さえ防止が引き起こすパラドックスだ。確かに、差し押さえ件数が減少すれば一部の人は自宅を失わずにすむし、不動産市場へのテコ入れ効果にもなる。しかしその背後で、ローン利用者が厳しい財政事情に苦しんでいることは隠されている。