コラム

トランプがあっけなく「留学生たたき」を止めた理由

2020年07月21日(火)15時00分

トランプ政権のビザ制限に抗議する留学生たち(7月13日)PAT GREENHOUSEーTHE BOSTON GLOBE/GETTY IMAGES

<ビザを発給しないと豪語した政策を早々に取り下げざるを得なかったアメリカの実情とは>

私の同僚のアメリカ人教師が、経営者教育研修プログラムで日本と中国からの参加者をからかったことがあった。

この同僚はホワイトハウスの元スタッフで、過去150年間の最も重要な13 の発明と、その発明が生まれた国について参加者に討論させた。その最大の狙いは、画期的な発明のほぼ全てがアメリカ生まれだという事実を示すことにあった。

この愛国主義者の同僚は、なぜ露骨な自慢で研修の参加者をもてなしたのか。国際問題の専門家である同僚はキャリアの全てを通じ、アメリカの覇権に対する挑戦者の台頭に頭を悩ませ続けてきたからだ。

20200728issue_cover200.jpg

わが同僚がそこで言及しなかった事実もある。まず、これらの発明のほぼ半分が移民の功績であること。そして残りの半分は、国際色豊かな「スーパースター」がそろうアメリカの大学で生まれた研究ネットワークと成果に支えられていたということだ。

この同僚のプログラムには賛成できないが、その主張の背後には重要な真実がある。アメリカは世界を変えるような「パラダイムシフト」を起こすことに関して、国力以上の実績を残している。最も重要な要因は、大学だ。

アメリカは大学の優位性のおかげで、世界最高の成果を生み、世界最高の人材を集めることができる。米移民関税執行局(ICE)は7月6日、100万人以上の留学生が授業を全てオンラインで学ぶことは認めず、オンライン授業のみの学校の留学生には新たなビザを発給しないと発表した。

その狙いは、トランプ政権が主張する「秋の学校再開」に向けて圧力をかけることにあった(トランプ大統領が早期の学校再開にこだわるのは、コロナ危機の影響を小さく見せ、11月の大統領選を有利に運びたい思惑があると思われる)。

トランプ政権のこの場当たり的な政策変更は、アメリカの世界的優位のカギである教育のソフトパワーを危うくする。コーネル大学の学長は反論した。「留学生を失望させたり追い出したりすると、学生だけでなく彼らの発明やイノベーションも失う。彼らが他国の文化や言語、政治制度の中で学んだ豊かな経験も失うことになる」

留学生はアメリカで50万人近くの雇用を創出している。全米国際教育者協会(NAFSA)によると、7人の留学生が3人分の雇用を生んでいる計算になる。10億ドル規模の新興企業の創業者の25%は元留学生だ。

米中冷戦が始まった今も、中国出身の博士号取得者の83%が学位取得から5年後もアメリカで働いている。

世界で最も重要な大学(ハーバード大学)と世界最高の技術系大学(マサチューセッツ工科大学=MIT)が訴訟を起こすと、このビザ制限はすぐに取り消された。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司

ビジネス

中国CPI、3月は0.3%上昇 3カ月連続プラスで

ワールド

イスラエル、米兵器使用で国際法違反の疑い 米政権が

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア軍の上陸艇を撃破...夜間攻撃の一部始終

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 6

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 7

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story