コラム

伝説の記者ウッドワードの暴露本は、トランプ政権への挑戦状

2018年09月22日(土)13時20分

トランプは最も現実から乖離した大統領だと、ウッドワードは言う Dominik Bindl/GETTY IMAGES

<70年代にニクソン大統領を辞任に追い込んだボブ・ウッドワードはトランプの首も狙うのか>

トランプ政権の内幕を描いたボブ・ウッドワードの『フィアー』が9月11日、アメリカで発売された(日本語版『恐怖の男』は12月刊行予定)。

トランプ米大統領は発売前の8月、伝説の記者ウッドワードと電話で新著について話をした。大言壮語と男らしさがご自慢のトランプだが、公開された音声は不安そうだった。この本がトランプ政権に対するジャーナリズムの最大の挑戦であることを物語るエピソードだ。

ウッドワードはアメリカ最高の、最も恐れられているジャーナリスト。情報源の質の高さと綿密な仕事ぶりは他の追随を許さない。この本のために取材した当局者は100人以上。本人によれば、うち50人はトランプ政権の高官だという。ある高官とは計9回会い、会話記録は1000ページ近くに達した。

精神的、道徳的欠陥を持つ無能な大統領の姿を描いた内幕暴露本という点では、マイケル・ウォルフの『炎と怒り』が既にある。だが政権へのダメージは、この本のほうがずっと大きい。

ウッドワードは政治調査報道の定義を書き換えた人物だ。ワシントン・ポスト紙の若手記者だった70年代、彼は同僚のカール・バーンスタインと2人で当時のニクソン大統領を辞任に追い込んだ。ピュリツァー賞を受賞したこの調査報道によって、同紙はアメリカを代表する政治紙の地位を確立する。

さらにウッドワードの活躍はロバート・レッドフォード主演で映画化され(『大統領の陰謀』)アカデミー賞4冠に輝いた。

本の中身自体は、既にホワイトハウスから流出済みの日常的エピソードが多い。注目点をいくつか拾ってみると――。

■トランプはツイッターを政治的武器にしているが、本人は自分のつぶやきを紙に印刷して読み、一番過激なツイートが最高だと自分で評価している。

■トランプは個人的な恨みに取りつかれており、憎悪のあまり現実を無視する。故ジョン・マケイン上院議員について、ベトナムでの捕虜時代に早期釈放を図った臆病者だと、事実とは正反対の発言をしたことがある。

■トランプ一家は王族のように振る舞いたがる。長女イバンカは、大統領の娘なのだから通常の行政手続きを飛び越えられると考えている。

■ペンス副大統領は存在感がほとんどない。大統領の職務を代行することになった場合や自分の選挙のことを考えて、明らかに距離を取ろうとしている。

■政権内の「大人たち」は、トランプの衝動的言動や愚かな考えを嘲り、妨害工作を行っていた。ゲーリー・コーン前国家経済会議委員長は大統領執務室の机から書類を盗み、トランプが署名できないようにしていた。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日仏、円滑化協定締結に向けた協議開始で合意 パリで

ワールド

NATO、加盟国へのロシアのハイブリッド攻撃を「深

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比1.6%増 予想と一

ワールド

暴力的な抗議は容認されず、バイデン氏 米大学の反戦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story