コラム

変化が遅い米大リーグ、時代に取り残される危機感はあるのか?

2020年06月11日(木)16時40分

MLBはシーズン開催をめぐってリーグと選手の協議が難航している Jonathan Ernst-REUTERS

<黒人差別抗議デモにいち早く連帯を示したフットボール、自動車レースとは対照的に、大リーグとその選手には時代に対応する動きは見られない>

5月25日にミネソタ州で起きた、白人警官による黒人男性ジョージ・フロイド氏に対する暴行死事件では、全国的にデモが広がる一方で、アメリカのスポーツ界にも大きな影響を及ぼしています。

まずアメリカフットボール連盟(NFL)では、ニューオーリンズ・セインツのクウォーターバック(QB)ドリュー・ブリー選手が、「フロイド氏の事件に対する抗議として、NFLの選手が国歌斉唱の際に膝をついたらどうするか?」と問われ、「誰であっても国旗を侮辱するのには賛成しない」と返答して、「大炎上」しました。

このエピソードは、もちろん2016年以来NFLで行われている、国歌斉唱時に人種差別への抗議の意思を示すために「膝をつく」行動が、賛否両論を呼んで、リーグ全体が大きく揺れてきたことをふまえたものです。

例えばトランプ大統領は、この「膝をつく」ことを国旗への侮辱だとして罵倒し続けてきました。ですが、今回のブリー選手の発言は、全国レベルで反対の大合唱となりました。そして、驚くべきことが起きました。NFLのロジャー・グッデル・コミッショナーは、「NFLは抗議の声に耳を傾けるべきだった」として、今回の事件によってあらためて問題提起された「BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動」に理解を示しつつ、NFLの姿勢に対する反省を述べたのです。

抗議デモへの連帯を示したNASCAR

グッデル・コミッショナーの発言は、抑制が効いたものであり、また「膝つき抗議行動」によって選手生命を中断された格好のコリン・キャパニック選手の名前を出すことはありませんでした。また、ブリー選手を名指しで批判したものでもありませんでした。ですが、コミッショナーの誠実な語り口は、「NFLが変わろうとしている」というメッセージとして全米に伝わったのは事実だと思います。

保守派の牙城、それこそトランプ派の象徴と思われている、アメリカ式の自動車レース「NASCAR」でも大きな動きがありました。主要なドライバー中の唯一のアフリカ系選手であるブーバ・ワレス選手が「BLACK LIVES MATTER」という文言をペイントしたレースカーを披露したのです。車にはまた「共感、愛、相互理解」というスローガンも掲げられていました。

この動きと合わせて、連盟はかねてから懸案となっていた「観客による南部連邦旗の持ち込みを全面禁止する」ということを発表したのです。理由は「NASCARは全てのファンのためのものであり、誰かが不快になるような問題は避けねばならない」というものでした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story