コラム

コロナワクチン効果の「ただ乗り問題」にご用心

2021年06月29日(火)18時00分

では、本題!(はい、いまさらです)。

なぜ先日友人とこの話になったかというと、ワクチン接種でこそただ乗り問題が顕著になっているからだ。新型コロナウイルス感染症は全国民のうち60~70%がワクチン接種をすれば、集団免疫ができるか、できなくても大規模な感染拡大を防ぐ予防効果があるとみられている。

そのレベルに至れば、接種した人のおかげで、していない人も含めてほぼ全員の健康も命も守られ、従来の経済活動ができるようになる。ただ乗り問題が最も生じやすいような状況だ。

ワクチン接種をせずに同じ恩恵を受けられるなら、接種しない人が現れる。そんな人を見るとまた違う人が「じゃ、私も」と、接種しない人数が徐々に増える。それが一定数を超えると、せっかくの集団免疫が失われる。そんな悪循環のシナリオも十分考えられるのだ。ひび一つでダムが崩れる。駐輪禁止区域に一台でも止まると、自転車が異常繁殖しているのかと思うほど一気に増える。それと一緒だ。

もちろん、慎重な人のお気持ちは理解できる。今回のワクチンは、緊急事態なので省略した過程で国に承認されたものである。まだ発覚していない副反応などのリスクはある。この指摘は間違いない。できるならその未知のリスクを負いたくないと思うのは当然だ。しかし、今回は、そのリスクが「運賃」だ。人口の6~7割の人だけが負担すれば、あとの皆さんは気にしなくていいと、僕は思わない。

ワクチンの成分に対するアレルギーを持つ人など、健康上の特別な事情で接種できない人は免除されるべきだが、基本はワクチン接種をしないという選択をとる人は、今後もマスクの着用、ソーシャルディスタンスの厳守、イベントの不参加、会食の自粛などなど、ワクチンと同レベルの感染予防策を実施する責任はあると思う。

ただ乗りの国じゃないよね?

もちろん、毎日予防策を徹底し、スポーツ観戦や外食のたびにPCR検査の陰性証明を提示するならば、ワクチンを接種する必要はないでしょう。これは未接種だからと、差別するわけではない。逆に、誰にも差別されないように、責任のある行動をとってもらうのだ。コロナと戦う「ワンチーム」のメンバーとしてこれが公平な扱いではないか。

イタリアのように、医療従事者のワクチン接種を義務付ける国もあれば、全国民の接種義務を検討する国ある。オーストラリアや韓国など、少なくとも9つの国で国民の過半数が義務付けに賛成とする世論調査の結果もある。(日本の賛成率はおよそ50%)。もちろん、義務化する政策も考えられる。

しかし、僕は日本でその必要はないと、確信している。そもそも「ただ乗り問題」は日本で知られていないのも、皆さんが国民として、ワンチームのメンバーとしての意識を持って行動しているからではないでしょうか。

考えてみれば、日本では小学校の掃除はクラス全員でやるし、貧富の差はあるとはいえ、相続税で資産の再分配を目指している。そういえば、電車にただ乗りする人も少ない。不正乗車をするとしても「キセル」して少し運賃を払うのが主流らしい。時々「給料泥棒」という生産性の低い社員の話は聞くし、芸能界でも時々「ギャラ泥棒」は出てくる。でも、基本的にはほぼ100%の国民がほぼ100%頑張ってくれていると、僕は見る。(少し夢見がちな50歳だが。)

そのおかげでロックダウンなしでも大きな国のなかで異例なほど感染を抑え込めているし、そのおかげでワクチン接種も行き渡ると、期待したい。日本はただ乗りの国じゃないから!もちろん横尾忠則さんの国なのは間違いないけど。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story