コラム

ビジネスマン失格のトランプは実は「グレイテスト・ショーマン」!

2019年05月29日(水)17時45分

トランプは、どれだけ納税申告書を見られたくないのか? リチャード・ニクソン以来初めて、大統領候補として開示しなかったぐらいだ。フォーブス誌で「トランプは税金報告書を見せない方がいい」という見解を示した税専門弁護士をわざわざIRS長官に抜擢するぐらいだ。トランプ・オーガニゼーション社の税理顧問を務めたことがある人をIRSのナンバーツーに指名したぐらいだ。しかも、その人の承認を司法長官のそれよりも優先するように上院に圧力をかけるぐらいだ。下院歳入委員会が法律に沿って納税記録の提出を召喚状で求めても断るぐらいだ。いま現在、報告書自体を丸めてパンツに入れて持ち歩くぐらいだ。まあ、最後は僕の妄想に過ぎないが、それぐらい固く守ろうとしている様子だ。

そこまでして見られたくないのはなぜなんだろう? 記事内容が間違っていたら、報告書を開示して正したいはずだ。もしかしたら、それ以外に隠したいことがあるのかな? その2つのファクターで開示するかどうかが変わる。分かりやすく「行動チャート」にまとめてみた。

pakkun190529-chart.jpg

この通り、開示しないというのは、記事が正しいか、隠したいことがあるかということになる。確かに、今まで脱税、マネーロンダリング(資金洗浄)、マフィアや対立国との金銭授受、公文書の偽造、教育詐欺、チャリティー基金の金の横領などなど、いろいろと、倫理においても法律においても疑わしい行為が噂されている。疑惑のトランプタワーだ。

厳しい人はどれに関しても真っ黒だとみるだろうが、僕は優しい。一番優しい解釈で「犯罪行為など、ほかに隠すことはないが、やはり記事の内容が合っているから恥ずかしくて開示しない」を信じることにする。

この「恥ずかしい」というのは、今まで一生懸命作ったイメージと事実が違うからだ。「自力で財を築き上げた、敏腕のビジネスマンで最高のディールメーカー(交渉人)」というブランドでここまで来たトランプ大統領だが、本当はどうだろう? ここまでの報道が正しかったら、本当のトランプはパパから異次元の支援をもらいながら、税金も下請け業者の賃金もまともに払っていないのに、銀行のローンを踏み倒しながら6回も会社を破産させて、11億ドルの大金を溝に捨てている、下手なビジネスマンで最低のディールメーカーである。

大統領としても、公約したディールはできていない。政府の閉鎖をしても、国境に壁は建たない。北朝鮮の金正恩と「恋に落ちても」、非核化は進まない。オバマケア(医療保険制度改革)の廃止はできない。中東問題は解決しない。イラン核合意、TPP(環太平洋経済連携協定)、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」などをいろいろぶっ壊してはいるが、何もできてはいない。もとい。最高裁判事を承認させることができた。減税法はできた。あと、お笑い芸人の間では山ほどのトランプネタができた。

いまだに日本のテレビなどでは「トランプはディールを重視するビジネスマンだから」と、大統領の言動を解説しようとするが、いい加減にこの捉え方をやめるべきではないか。そんなセンスがないことは十分わかったはず。本当にトランプを理解したいなら、それ以外の経歴を見るといいと思う。それは、トランプが実際に成功したこと、つまりビジネスよりもリアリティー番組とプロレスだ。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ検問所のガザ側掌握と発表 支援

ビジネス

アングル:テスラ、戦略転換で幹部続々解雇 マスク氏

ワールド

豪中銀、4会合連続で金利据え置き 総裁はハト派発言

ビジネス

植田日銀総裁が官邸入り、岸田首相と意見交換=報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story