コラム

トランプ大統領のシリア攻撃は「目くらまし作戦」?

2018年04月17日(火)18時40分

しかも、化学兵器の使用を抑止できるとも思えない。たった1年前に同じアプローチで制裁したはずだが、シリアはまた使っている。今回が違う保証はない。「同じ行動を何度も繰り返して、違う結果を期待する」。これはアインシュタインが言ったとされる「狂気の定義」だ。狂気じゃなければ、前回と同じ結果を期待しているはず。つまり、化学兵器の使用は止められないが、支持率の下降は止められるぞ!

思わずうなずくところだね。

というか、そもそも、本当に化学兵器の使用はあったのか? アメリカ側は何も証拠を示さず、国際機関の調査結果をも待たずに攻撃を開始した。トランプ独自のオルタナティブファクト(もう一つの真実)を持って攻撃を決定していたのでは?

確かにそう言われると......。

正直、僕はこんな論調は間違っていると思う。アメリカは事実上、世界の警察の役割を担っている上、オバマ政権時から化学兵器の使用を超えてはならない一線「レッドライン」としている。さらに、14年にロシアの仲介の下でシリアに化学兵器を完全放棄する約束してもらった。そんな状況では、国際法だけでなく、アメリカとの合意をも破るシリアの悪行を傍観できない。目をつぶってしまえば、アメリカの権威は失われ、今後の外交に大きな悪影響が及ぶに違いない。

「第一、世界の警察をやめるべき」「レッドラインを引くべきではない」――そんな議論はもちろんできるし、やるべきだが、今のところは限定的な制裁攻撃が妥当な選択だ。

アンチ・トランプ兼平和主義者な僕でもこう思っている。

しかし、上述のような「でっちあげに基づいた、大損する"目そらし作戦"だ」という主張に納得する人は世の中に多い。それもそうだ。不祥事が多く、支持率が低くて内政をまとめられないトランプは外敵を作る動機が顕著にある。長官たちによる公金の無駄遣いが頻繁に報道されるトランプ政権は、コスト計算が狂っていて当然だ。カナダ首相との昨年の首脳会談ででたらめを押し通したことを先日自慢したほら吹き大統領のこと、いつウソをついても驚かない。

トランプは普段の言動や政権運営により、彼の判断の正当性を世界中の人に疑わせている。「大統領が言うなら間違いない」ではなく「大統領がいうなら間違いあり」の時代になっている。そんななか、正しい判断でも間違って見える。投資でも浪費に見える。正論でも愚論に聞こえる。アメリカ・ファーストでもトランプ・ファーストと思われる。

残念ながら、冷静な議論がしづらい。


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑

ワールド

再送イスラエル軍、ラファ空爆 住民に避難要請の数時

ワールド

再送イスラエル軍、ラファ空爆 住民に避難要請の数時

ワールド

欧州首脳、中国に貿易均衡と対ロ影響力行使求める 習
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 6

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 7

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story