コラム

東京近郊の新・チャイナタウンで未知の中華料理に出会う

2018年12月26日(水)15時00分

中華料理店に春節の祝いの中国獅子舞がやってきた(2016年2月、横浜中華街) Thomas Peter-REUTERS

<日本のチャイナタウンは横浜、神戸、長崎だけと思ったらもう古い。新世代の中国人が続々と店を開き、今まで日本では食べられなかったような中華料理も提供している>

最近、私が見ている中国人のSNSでよく出回っている地図がある。中国各地の代表的な食べ物を表したもので、出典は不明なのだが、これがけっこう興味深い。まず、その料理地図を見てほしい。

chizu181226.jpg

皆さんが知っている料理名はあるだろうか?中国語で書いてあるのでわかりにくいが、たとえば、内陸部の新疆ウイグル自治区あたりには「蘭州拉麺(ラーメン)」、東北部の吉林省あたりには「朝鮮冷麺」などの文字が見えるだろう。ほかに、中国料理好きならば「羊肉串」、「臭豆腐」といった料理名に見覚えがあるかもしれない。しかし、おそらく、この地図にあるすべての料理を食べたことがある、という日本人は非常に少ない(ほとんどいない)のではないだろうか?

広大な中国には、その省や地域内だけで食べられていて、他にあまり流通していない名物料理がたくさんある。知り合いの在日中国人数人にこの地図を見せて聞いてみると「食べたことがない料理がかなりある」と話していた。中国料理には各地の特色があり、一口に中国料理といっても奥が深い。だが、日本人がこれまであまり食べたことのないような中国料理が、ここ数年、日本で味わえるようになってきた。東京近郊に「新・チャイナタウン」と呼べるようなところがいくつも出現しているからだ。

注目株は西川口

私は拙著『日本の「中国人」社会』の中で、そうした新興チャイナタウンの一部を取り上げた。日本のチャイナタウンといえば、横浜、神戸、そして長崎。「老華僑」と呼ばれる中国人が伝統的な中華料理店を営んでいるが、それとは別に、近年、「新華僑」(1978年の改革開放以降に来日した中国人)が開いた中華料理店が増えていて、これまでにない、まったく新しい勢力図ができつつあるのだ。

chinasociety01.jpg

たとえば、最近の注目株は西川口チャイナタウン。ここは一般的な意味での「チャイナタウン」ではないが、駅を出て数分歩くと、中国料理店が何軒も連なっており、一種独特な雰囲気を作り上げている。いわば地元密着型チャイナタウン。川口市内に住む中国人が昼食や夕食にぷらっと立ち寄る店が多いのが特徴だ。そのせいか、上の料理地図にあるような(つまり、日本人がほとんど食べたことのないような)珍しい料理もメニューにある。

上の地図の東北部に位置するあたりにある「涼皮」(リャンピー、小麦粉や緑豆のでんぷんなどで作った透明なところてんのようなもの)を使った料理も西川口の中国料理店ではよく見かける。次の写真にあるような、東方の郷土料理を数多く揃えている店もある。新華僑には東北地方や福建省の出身者が多いからだ。ほかに貴州料理、雲南料理などもある。

tohoku181226.jpg
バラエティーに富んだメニュー  (筆者撮影)

プロフィール

中島恵

中島恵(なかじまけい) ジャーナリスト
山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経てフリージャーナリスト。
中国、香港、台湾、韓国などの社会事情、ビジネス事情などを雑誌、ネット等に執筆している。主な著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』、『中国人の誤解 日本人の誤解』、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』、『中国人エリートは日本をめざす』、『なぜ中国人は財布を持たないのか』、『中国人富裕層はなぜ日本の老舗が好きなのか』などがある。

中島恵公式ホームページ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story