コラム

仏マクロン政権の責任転嫁「大暴動は若者の親とSNSとTVゲームのせい」

2023年07月12日(水)18時25分
マクロン仏大統領

暴動が発生した各市の市長らとの会議で発言するマクロン大統領(7月4日) LUDOVIC MARIN/Pool via REUTERS

<フランス全土に広がった怒りの暴動は、政府の対応のまずさによって加速している>


・フランス政府は10代の若者に夜間外出を認める親の他、「暴力を煽る」SNSやTVゲームを大暴動の原因としてあげた。

・しかし、マクロン政権はこれまで移民とりわけムスリムの反感を招く政策を数多く実施し、これがデモと暴動を招く要因となった。

・マクロン政権の責任転嫁は「悪いものは外から来る」という論調をヨーロッパ各国で強め、極右の活動を活発化させかねない。

マクロン政権がこれまで差別を認めてきたことは、結果的に暴動を誘発したとみてよい。

「デモ禁止」のインパクト

フランスで広がる差別反対の抗議デモは、フランス政府の対応のまずさによって加速している。

6月27日にパリ(編集部注:郊外のナンテール)で発生した、警官によるアラブ系未成年の射殺をきっかけに広がった大暴動は、商店や自動車の破壊などで10億ユーロ(約1550億円)以上の損失を出したとみられ、3400人以上が逮捕された。

これを受けて、警察は7月8日「デモ禁止」を発表した。

ところが先週末、警察の命令を無視して数千人がデモ活動を行なった。パリ中心部にある共和国広場では数百人のデモ隊が集まり、暴力行為があったわけでもないが、警察によって追い散らされた。

参加者の一人は英ロイター通信のインタビューに「フランスでは表現の自由はまだ保たれている。でも、集会の自由は危機に瀕している」と述べ、不満を口にした。

日本と異なり欧米ではデモが日常茶飯事だが、とりわけフランスは「革命とデモの国」と呼べるほどデモが多い。それだけに「デモ禁止」が多くのフランス人の反感を招いても不思議でない。

SNSとTVゲームも規制対象に?

マクロン政権の対応がかえって反感を招いたのは、こればかりではない。

「デモ禁止」に先立つ6月30日、マクロンはデモや暴動に参加している10代の若者を念頭に「彼らが夜の路上に出ないようにするのは親の責任であって、政府の仕事ではない」と主張した。

さらに翌日の記者会見では「暴動で逮捕された者の1/3はとても若い」と指摘したうえで、「彼らのなかにはゲームの中毒者もいるようだ」と述べた。

マクロンのこうした主張を、ゲームの社会的影響を研究する米ステッソン大学のクリストファー・ファーガソン教授は「時代錯誤的」と批判する。ファーガスンによると、「TVゲームがそうした悪影響をもたらすなら、最も普及している日本、韓国、オランダなどでは流血の惨事が絶えないはず」。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中東欧・中東などの成長予想引き下げ、欧州開銀「2つ

ビジネス

英バーバリー、通年で34%減益 第4四半期の中国売

ビジネス

ABNアムロ、第1四半期は予想上回る29%増益 高

ビジネス

三菱UFJFG、発行済み株式の0.68%・1000
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story