コラム

ウガンダ選手の失踪は例外ではない──国際大会で「消える」アフリカ系アスリートたち

2021年07月23日(金)12時20分

実をいうと、ウガンダ経済はアフリカのなかでは「まし」な部類に入る。

ウガンダはコーヒー豆の輸出を中心としてきたが、近年ではアフリカ大陸最大の湖、ビクトリア湖を活用した淡水真珠の養殖など、新規事業にも国家主導で取り組んできた。その成果もあり、世界銀行の統計によると、コロナ発生前の2019年には6.8%のGDP成長率を記録した。これは2014年の資源価格下落後、低迷するアフリカ平均(2.3%)と比べても悪くないパフォーマンスといえる。

ただし、経済が全体的に成長していても、多くの人がその恩恵を受けられるかは話が別だ。ウガンダは貧困国の多いアフリカのなかでもとりわけ所得水準の低い国の一つで、一人当たりGDPは817ドル(2020)にとどまり、アフリカ平均の1,483ドル(2020)と比べてもずいぶん低い。そのうえ、人口の約20%が貧困層とみられる。

つまり、ウガンダの景気はそれなりによかったが、多くの人の生活がそれに比例して改善されてきたとは言いにくい。

コロナ、バッタ、高齢の「独裁者」

この生活状況をさらに悪化させているのが、コロナ禍による観光業などへのダメージと、東アフリカ一帯で昨年から猛威を奮ってきたサバクトビバッタの来襲だ。

サバクトビバッタによる農作物被害は深刻化しており、ウガンダでは約30万人が食糧不足に陥っている。

生活の悪化を受け、ウガンダでは児童労働も増えており、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが今年5月に発表した報告書によると、コーヒー豆農園やサトウキビ畑で1日10時間以上働く子どもも珍しくないという。

こうしたなか、政府への批判や不満は高まっているが、こうした声はむしろ押しつぶされてきた。今年1月に行われた大統領選挙では、野党の有力候補ボビー・ワインが「コロナ対策に違反して選挙活動を行なった」という名目で逮捕され、これに抗議する野党支持者に警官隊が発砲して死傷者を出す騒ぎとなった。さらに、投票日直前にはインターネットも遮断されるなど、あまりに偏った選挙運営にアメリカの監視団が活動を取りやめるほどだった。

この選挙戦で勝利を宣言した現職ヨウェリ・ムセベニ大統領は、これによって6期目を確実にした。1986年から権力を握り続け、今年77歳のムセベニは、アフリカ最長の「独裁者」の一人といえる。コロナとバッタという二重の国難にもかかわらず、高齢の「独裁者」がなりふり構わず権力の座にしがみつく姿に、多くの国民が幻滅したとしても不思議ではない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米な

ビジネス

米年内利下げ回数は3回未満、インフレ急速に低下せず

ワールド

イラン大統領ヘリ墜落、原因は不明 「米国は関与せず

ビジネス

FRB副議長、インフレ低下持続か「判断は尚早」 慎
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story