コラム

米議会に侵入「Q-Anonの祈祷師」とは何者か──トランプ支持をやめない日本人の罪

2021年01月12日(火)19時10分

自分たちでは何かスゴいことをやっているつもりで、「特定してくれ」といわんばかりに動画をあげ、結果的に自分たちで証拠を残しているのでは、バイトテロをやらかして雇用先から巨額の損害賠償を請求される若者と同じだ。そこには「自分は絶対大丈夫」という根拠のない自信があるのだろう。

自己愛の果てに

アメリカの多くの精神分析学者や心理学者はトランプ大統領を「自己愛性人格障害」とみている。「自分はかけがえのない存在」という思いが強すぎて、自分の失敗や欠点を認められず、他者からの批判に過剰に反応して攻撃的になるタイプだが、トランプ氏に関しては多くの専門家が強い劣等感の裏返しで、万能感、誇大妄想、賞賛への渇望の強さなどを見出している。

Q-Anonの祈祷師チャンスレー氏の「美しい日」というコメントだけでなく、議事堂内でイキって(としか筆者には表現できない)動画を撮影しているデモ参加者の様子も、これを思い起こさせる。彼らにとって議事堂侵入は、並ぶもののない偉業だったのだろう。

しかし、誇大妄想の強さは自分にとって不利な状況を認められない弱さの裏返しでもある。選挙結果を認められないトランプ大統領の姿は、その象徴だ。

誇大妄想や万能感といった特徴でトランプ氏と共通するのがヒトラーだ。第二次世界大戦末期、ソ連軍がベルリンに迫るなか、ヒトラーは米英との和平交渉が可能と信じ、それも不可能と理解するや、ナチス要人がヒトラーを見限って次々とベルリンを離れるなか、人前に姿をみせなくなった。自分が描いた第三帝国の理想像とのギャップに耐えられなかったのかもしれない。

現在のトランプ大統領の姿がベルリン陥落直前のヒトラーとダブってみえるのは筆者だけだろうか。

トランプ支持の日本人の罪

日本に目を転じると、これまでトランプ支持の姿勢を示していたメディアや著名人のなかからも、知らぬ存ぜぬを決め込んだり、否定的な立場に回ったりする者が出始めているが、SNSやYouTubeではこの期に及んでなお「トランプの大逆転」を示唆する陰謀論が後を絶たない。

ただ面白がっているだけなのかもしれないが、そうだとしても恐らく彼らは海外の同胞について全く想いが至らないのだろう。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日仏、円滑化協定締結に向けた協議開始で合意 パリで

ワールド

NATO、加盟国へのロシアのハイブリッド攻撃を「深

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比1.6%増 予想と一

ワールド

暴力的な抗議は容認されず、バイデン氏 米大学の反戦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story