コラム

岸田政権が長期政権になる為に必要なこと

2021年10月21日(木)17時30分

金融市場の関係者は岸田首相の所信表明演説に批判的だったが...... Eugene Hoshiko/Pool via REUTERS

<総選挙がきっかけで株高が起きるかどうかは、時の政権がどのような経済政策を行うかどうか次第だが...... >

10月31日に投開票される衆議院選挙が、19日に公示された。各種世論調査によれば、早期解散を決めた岸田文雄新首相の支持率はほどほどの高さとなっており、連立与党が大きく議席を失うリスクは限定的だろう。岸田首相率いる与党は安倍・菅政権が残したレガシーを活かせる立場にある。菅政権が進めたワクチン接種政策の恩恵もあり、10月に入って新型コロナ患者数が劇的に減っていることが大きな追い風になるとみられる。

一方、共産党との共闘体勢を強めてきた野党第一党である立憲民主党への国民の支持率はほとんど高まっていない。立憲民主党を支持してきた主要労働組合の一部が、同党への支持姿勢を弱める動きもみられている。更に、共産党と距離がある維新の党と国民民主党が一定の存在感を保っており、自民・公明の連立与党を覆す大きな風が野党に吹く可能性は低いだろう。

日経平均株価は8営業日連続で下落した

岸田政権がどの程度議席を積み上げることができて、党内基盤が強まり、長期政権に繋げられるかどうかの最初の試金石になる、というのが今回の総選挙の主たる位置付けになりそうである。

自民党が総選挙で大きく勝利すれば、日本株市場の追い風になるとの見方もある。2005年小泉政権時のいわゆる郵政解散、2012年末の第2次安倍政権への政権交代時には、総選挙をきっかけに日本株市場が大きく上昇した。一方、2009年の総選挙では、自民党政権に逆風が吹いたことで民主党が大勝して政権交代が起きたが、民主党政権は経済政策運営に失敗して、日本経済はデフレに苦しみ日本株は2009年半ばから約3年に渡り停滞した。言うまでもないが、総選挙がきっかけで株高が起きるかどうかは、時の政権がどのような経済政策を行うかどうか次第とみている。

「分配なくして次の成長なし」と明言して、「新自由主義的な政策」に批判的な姿勢をみせる岸田氏が首相となった日を挟んで、日経平均株価は8営業日連続で下落した。この時期の株安の半分以上は米国株の下落で説明できるだろうが、株式投資家の多くは、岸田政権に対して期待よりも、やや警戒感の方が強いとみられる。

日米相対株価(TOPIX/S&P500)を見ると、同指数は、菅前首相の事実上の辞任表明直前の8月末から大きく上昇した後、岸田首相誕生によって上昇した分の約半分が失われた。ただ、8月末対比では日米相対株価は上昇したままなので、今後の岸田政権の政策運営や政治情勢に対する期待が崩れているわけではない。

金融市場の関係者は所信表明演説に批判的だった

株式市場などから評判が悪い、金融所得課税強化について岸田首相は「当面は触らない」と述べた。これについて、岸田首相が軌道修正したとの向きもあるが、元々、増税については長期的かつ柔軟に考える方針だったのが実情だと筆者は考えている。また、自民党の総選挙の公約などを踏まえれば、連立与党が政権維持した場合の新政権は、コロナ克服と経済正常化を最優先にする菅政権とほぼ変わらない政策を当面続けるだろう。日本経済の先行きは、コロナ抑制が続き経済再開が続くかどうか次第である。

また、8日に行われた岸田首相の所信表明演説に対して、金融市場の関係者などから批判的に評価されているが、演説における経済政策の言及で筆者は安心感を覚えた。なぜなら、経済政策の部分については、まず金融財政政策について言及しており、安倍・菅政権同様の政策を踏襲する姿勢が確認されたからである。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。著書「日本の正しい未来」講談社α新書、など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正(14日配信記事・発表者側の申し出)シャープ、

ビジネス

中東欧・中東などの成長予想引き下げ、欧州開銀「2つ

ビジネス

英バーバリー、通年で34%減益 第4四半期の中国売

ビジネス

ABNアムロ、第1四半期は予想上回る29%増益 高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story