コラム

新疆の綿花畑では本当に「強制労働」が行われているのか?

2021年04月12日(月)11時45分

なお写真1に見るように兵団の多くは北疆(地図の上半分)にあるが、南疆(下半分)にもある程度存在する。

210412maruphoto1.jpeg
(筆者撮影)

新疆生産建設兵団は1954年にスタートし、当初は人民解放軍の兵士とその家族20万人以上が新疆に送り込まれ、その9割以上が漢族だった(加々美、2008)。表に見るように、1955年時点で新疆の人口487万人のうち漢族はわずか30万人(6%)で、その6割以上を兵団が占めていたと推定される。つまり、兵団は新疆の中国化の尖兵として送り込まれたのだ。

新疆では中国の国民党統治時代の1944年から45年にウイグル、カザフ、ウズベクなどトルコ系民族による革命が起き、「東トルキスタン人民共和国」の樹立が宣言されるなど分離独立志向があった。1946年に国民党政府と革命勢力が和解して独立は取り消されたものの、1949年に中国の支配者が共産党に代わってからも新疆の独立志向への警戒は続いた。

中国はソ連が新疆での反乱を焚きつけることを恐れていた。実際、1958年から60年代にかけて新疆でトルコ系住民が反乱を起こして、中国が軍を差し向けて鎮圧し、大勢がソ連に逃れる事件がたびたび起きた。

そこで、新疆に生産建設兵団を送り込むことで中国化し、分離独立やソ連への併合を許さない態勢を作ることが目指されたのである。兵団には上海など都市からも青年が下放されてくるようになり、さらに甘粛省など内陸の貧しい地域から新疆への移民も流入した。こうして新疆における漢族の人口比率が高まり、1980年以降は40%前後となっている(表参照)。

2019年現在、新疆生産建設兵団の総人口は325万人で、新疆全体の13%弱を占めている。また、生産額では新疆全体の2割を占め、1人あたりGDPで見ると新疆の2019年の平均が7812ドルであったのに対して兵団では1万2258ドルと相対的に豊かである。ただ、兵団には定年後の老人たちが52万人もいて(2010年時点)、彼らの生活を支える負担も大きく、中央政府からの補助金なしではやっていけないという(Bao、2018)。

210412maruchart.png
(筆者作成)

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン大統領と外相搭乗のヘリが山中で不時着、安否不

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story