コラム

ファーウェイ問題の核心

2019年01月22日(火)17時49分

ファーウェイの経営者は従業員に対して「火鍋チェーンのハイディーラオ(写真)に行って顧客満足とは何たるかを学んで来い」と言っているという (筆者撮影)

<ファーウェイが情報を盗んでいるという決定的な証拠は今のところない。世界有数の技術力を持ち、経済性にも優れたファーウェイ製品が使えないのであれば、5Gへの投資をしばらく猶予するというのも一つの選択肢ではないだろうか>

ファーウェイ(華為技術)はいま中国でもっとも高い技術力を持つ企業である。スマホや、スマホでの通信を支える基地局、通信ネットワークの機器を作って、世界じゅうに売っている。

ファーウェイは10数年前までは日本のNECや富士通の後を追いかける存在だったが、今では移動通信の基地局ではスウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキアと並ぶ世界三強の一角を占め、直近では世界1位である。スマホでも最近アップルを抜いて韓国のサムスンに次いで世界2位である。

こうした競争力は重厚な研究開発力に支えられている。従業員18万人のうち8万人が研究開発に従事し、2017年には売り上げの15%に相当する1兆5000億円以上を研究開発に投入した。

アメリカは早い段階からファーウェイに対して疑いの目を向けてきた。民間企業だと言っているが、本当は政府や軍の息がかかっているのではないか、製品のなかに「裏口」が仕掛けられていて、中国がそこから情報を抜き取れるようになっているのではないか、といった議論が議会で盛んに行われていた。

そうした疑念はオバマ政権の間は単に疑念というにとどまっていたが、中国たたきを身上とするトランプ氏が大統領に就任するに及んで、ファーウェイに対する苛烈なバッシングがアメリカ政府の政策として展開されるようになった。2018年4月には連邦通信委員会がファーウェイとZTE(中興通訊)の機器をアメリカの通信事業者が利用することを事実上禁じる方針を打ちだした。8月には2019年度国防権限法によってアメリカ政府の情報システムの調達からもファーウェイやZTEなどが排除された。

一方、日本ではファーウェイに対する攻撃は不思議と起きなかった。週刊誌は中国産食品を攻撃することには熱心だが、中国産通信機器の問題には関心がないようだ。

ところが2018年12月になって、日本政府は中央省庁や自衛隊が使う情報通信機器の調達においては機密漏洩を防ぐよう注意すべきだとの指針を打ち出した。菅官房長官は「特定の企業、機器を排除することを目的としたものではない」と説明したが、マスコミは、事実上ファーウェイ(華為技術)など中国製品の排除を意味すると解釈している。

さらに日本政府は情報通信や電力など重要インフラを担う民間企業に対しても情報漏洩の懸念がある機器を使わないよう要請した。これまた名指しはしないものの、事実上中国製品の排除を求めたものだという。

通信大手ではソフトバンクが中国のファーウェイやZTE(中興通訊)の基地局を利用しているが、ソフトバンクは2019年春から整備を始める予定だった第5世代(5G)の機器だけでなく、現在使っている第4世代(4G)のファーウェイやZTEの基地局もノキア(フィンランド)とエリクソン(スウェーデン)のものに順次入れ替えていくことを決めた。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story