コラム

ブレグジット期限だったのに何も決まらず!──イギリス政治に何が起こっているのか?

2019年03月29日(金)14時30分

暗黙の了解を破る政治的な動きが少しずつ出てきたのは、昨年頃から。秋の党大会で、労働党が「再度の国民投票」をようやく選択肢として入れた。再度の国民投票で残留が勝つとは限らない。それでも、「離脱=決して冒してはならない、国民の決断」に挑戦する動きである。

しかし、「影の内閣」を担当する労働党指導陣の足並みがそろわない。党首ジェレミー・コービン氏は離脱派か残留派かを明確にしていない。もともと、巨大な官僚組織としてのEUには懐疑的だったが、離脱を選択した労働党有権者の手前、個人的な姿勢を公にはできない。再度の国民投票への支持も生煮えである。

離脱条件は「現状維持」?

労働党が離脱支持なのか、残留支持なのか、すぐにわかる人は一般市民にはほとんどいない。指導部が「もちろん離脱支持」と言いながらも、「離脱条件」として「現状と全く同じ権利を持つ」ことを要求する。もちろん、そんなことは不可能である。

一方のメイ首相は元残留派だが、首相就任時から「ブレグジットを断固としてやり遂げる」と宣言。関税同盟からも単一市場からも出ると確約して、強硬離脱派(ハード・ブレグジット)の姿勢を明確にした。党内の欧州懐疑派の取り込みに熱心で、厳格な姿勢を崩さない。

ブレグジットという英国の大きな転換について、メイ首相は「どのように離脱するかは保守党政権が決める」という方針を維持してきた。野党議員も国民も、離脱交渉の過程では蚊帳の外に置かれ続けた。

下院議員が離脱の仕方について票を投じることができたのは、今年1月になってから。メイ首相は、昨年11月、EUと英政府が合意した離脱協定案を採決に出し、「私の合意案に賛成するか、でなければ『合意なき離脱』しかない」と選択を迫った。当時、離脱予定日までは2か月強で、「脅し」でもあった。この案は歴史的大差で否決された。

3月12日、メイ首相は若干の修正を加えて、再度この案を採決に出した。またも大きな差で否決。翌週、3度目に出そうとしたところで、バーコウ下院議長から「同じ会期中に実質的に同じ動議は出せない」とくぎをさされた。

2回にわたる否決後、メイ首相は協定案を大きく変えていない。野党議員らは代案を用意しておらず、大迷走に陥った。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

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