コラム

韓国、新型肺炎の集団感染を起こした新興宗教「新天地イエス教会」の正体

2020年02月25日(火)13時29分

「新天地」は、背道、滅亡、救い、霊、再臨主、地上天国、と言った語句を駆使して恐怖感を植え付け、信者を隷属させる手法で離脱を防ぎながら勢力を伸ばしている。

「新天地」の信者は若者が多いと言われているが、なぜ彼らは「新天地」という新興宗教団体に魅かれるのだろうか。答えは、緻密に準備された「新天地」の布敎方法にある。

「新天地」は、布教活動をする前に布教対象者の個人情報を把握し、徹底的に分析してから行動に移る。基本的にはすでに他の教会に通っているクリスチャンを布教対象者にしているが、その理由は、聖書を全く知らない素人は聖書を教える時間がかかるだけではなく、聖書に関心を見せないケースが多いからである。従って、通っている教会に不満を持っている人などに接近し、それとなく「新天地」の教理を教えながら組織を拡大している。原則的には3人がチームを組み、偶然を装って意図的に近づく。一人は布教対象者に対する情報を提供し、一人は対象者を管理し、一人は聖書を教える。最初は英語を勉強したがる人には英語を教え、ピアノが趣味である人にはピアノと関連した情報を提供するなど布教対象者ごとに戦略を変えて接近する。好感を得るために、花見に行ったり、食事を一緒にし、たまには旅行も行く。

入信が確定するまで正体は明かさない

その後、好感が得られたと判断すると、少しずつ聖書の話をし、勉強会に誘う。但し、「新天地」の信者になるまでは平均7カ月という時間がかかり、だれでも信者になるわけではない。布敎活動の第2段階である「福音房」や第3段階である「センター」で、聖書の勉強会に参加する意思があるかどうか、週4回(月・火・木・金曜日)、1日3時間ずつ勉強会に参加できるかどうかの検証作業を行う。勉強会に参加する意思や時間がなく、途中でやめてしまうと、勉強会の場所が外部に知られ、場所を変更する等の手間がかかるからである。よって信者には相対的に時間調整がしやすい主婦や学生が多い。

「新天地」は勉強会が終わるまで正体がばれないように「ビジョンセンター」、「弟子訓練」、「ヒーリングセンター」、「お母さん学校」、「お父さん学校」のように普通の教会で使われている名前を勉強会に付けて運営している。また、勉強会に参加している間は家族や知人、そして通っていた教会などに勉強会に参加していることを知らせることを禁止している。勉強会に参加していることが知られると、家族や知人の反対により勉強会に参加できない可能性が高まるからである。そのためなのか、「新天地」の勉強会に参加する人や、「新天地」で信仰生活をする人には家出をしている人が少なくなく、「新天地」の本部や支部の前では「息子を帰らせ」、「娘を帰らせ」と一人デモをしている人をよく見かける。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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