コラム

日韓対立の影響は?韓国経済に打撃大きく、日本経済にもマイナス 日韓関係の回復を強く望む

2019年08月19日(月)18時00分

8月15日、韓国の光復節の演説で「対話による解決」を訴えた文在寅大統領 Jung Yeon-je/Pool via REUTERS

<市民や市民団体の草の根交流を維持・活性化しながら、企業間で解決策を模索し、協力関係を維持すべき。お互いの痛いところを付きまくらず、相手を傷つけるような言動を抑制する心構えを...>

日韓共にホワイト国から排除

日韓関係に改善の兆しが見えない。

日本政府は7月4日から輸出許可取得の手続きが簡素な「包括輸出許可制度」の対象から韓国を除外し個別の許可制とした。最初に対象となったのは、半導体の洗浄に使う「フッ化水素ガス」と半導体の基板に塗る感光材「レジスト」、そして高精細テレビやスマートフォンのディスプレーに使われる「フッ化ポリイミド」の3品目であり、今回の措置により、これら3品目の輸出には、経済産業省の審査に最大3カ月の時間がかかるようになった。

さらに、8月2日の閣議では、輸出先として信頼できるホワイト国(輸出優遇国)から韓国を除外する政令の改正を正式に決定した。この決定により8月28日から、上記の3品目以外にも化学薬品や工作機械など軍事転用の恐れが高い部材を韓国に輸出する場合は、輸出の契約ごとに個別の許可が必要になる。

一方、日本政府が、安全保障上の措置として、韓国をホワイト国(輸出優遇国)から除外し、事実上格下げする措置を決定したのに対し、韓国政府は8月12日に、武器に使われる恐れのある機械などの「戦略物資」の輸出手続きを簡略化できる「ホワイト国」の対象から、日本を除外する制度改正案を発表した。

さらに、韓国政府は8月8日に日本から輸入する「石炭灰」の放射性物質の検査強化を発表した直後の8月16日には日本とロシアから輸入する廃プラスチックや廃タイヤ、そして廃バッテリーの3品目について放射性物質の検査を強化(3ヶ月に1回から1か月に1回に調整)すると発表した。

打撃が大きいのは韓国

このような対立の関係が続くと日韓両方の経済にマイナスの影響が発生するのは必至であり、さらに日本への部品依存度が高い韓国経済への打撃は大きい。

図表1と図表2は韓国の対日本向けの年別輸出入件数と金額を示している。日本向けの輸出入件数はそれぞれ2000年の47.6万件と84.0万件から2018年には92.6万件と178.4万件に輸出と輸入ともに2倍弱増加している。

また、日本向けの輸出入金額も2000年の204.7億ドルと318.3億ドルから2018年には305.3億ドルと546.0億ドルに増加した。日本からは機械部品や半導体関連材料などの輸入が多く、輸入件数と金額が輸出を大きく上回っている。

図表1 韓国の日本向け年別輸出入件数の推移
kim190819_01.jpg

(出所)韓国関税庁輸出入貿易統計ホームページより筆者作成

図表2 韓国の日本向け年別輸出入金額の推移
kim190819_02.jpg

(出所)韓国関税庁輸出入貿易統計ホームページより筆者作成

韓国のシンクタンクである現代経済研究所が最近発表した報告書によると、日本から輸入する4227品目のうち、日本への輸入依存度が50%以上であるのは253品目で、さらに90%以上であるのは48品目であることが明らかになった。

報告書では韓国の産業競争力が日本に遅れている点を強調しながら、今回の日本政府の輸出優遇措置の見直しにより韓国経済が厳しい状況に置かれる恐れが高いと指摘した。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏とインドネシア保健相、保健分野でスターリン

ビジネス

アングル:米株が最高値更新、経験則に従えば一段高の

ワールド

イラン大統領と外相搭乗のヘリが山中で不時着、安否不

ワールド

カナダ、中国製EVの関税引き上げ検討=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story