コラム

韓国、2020年の最低賃金の引き上げ率2.87%が「惨事」と言われる訳

2019年07月23日(火)17時55分

経済成長率がマイナスに転じたのは文在寅政権になってからもう2度目のことである。80年代以降の歴代大統領のうち、経済成長率の減少を二回以上経験したのは盧泰愚元大統領(1988年第2四半期:マイナス2.0%、1989年第1四半期:マイナス0.1%)と金大中元大統領(1998年第1四半期:マイナス7.0%、1998年第2四半期:マイナス0.6%、2000年第4半期:マイナス0.7%)のみであった(図表3)。

盧泰愚元大統領の場合は、1988年と1989年の年間経済成長率がそれぞれ11.9%と7.0%になったので、一時的に経済成長率がマイナスになったことは大きな問題にはならなかった。

また、金大中元大統領時代に経済成長率がマイナスになったことは1997年末に起きたアジア経済危機の影響が大きく、その後韓国経済が回復し始めたので非難の的になることはなかった。文大統領の経済政策を評価することは時期尚早かも知れないが、このままだと非難を免れない可能性が高い。

図表3 80年代以降の経済成長率の四半期別の推移
korea_wage190723_3.jpg

結びに代えて

韓国における2017年時点の低賃金労働者の割合注2)は22.3%で、OECD諸国の中でも低賃金労働者の割合が高い国である。今回、最低賃金の引き上げが小幅にとどめられたことにより彼らの所得水準が大きく改善しそうにないことはとても残念である。

但し、企業、特に零細自営業者の負担が増えることや韓国経済があまりよくないことを考えると、今回の最低賃金委員会の決定は「窮余の一策」とも言えるだろう。

最低賃金の引き上げにブレーキがかけられた現状で、韓国政府は法律で決まっている最低賃金が守られるように管理監督を徹底するとともに企業の意識改善に力を入れる必要がある。2018年の最低賃金の未満率(最低賃金未満の時給で働いている労働者の割合)は15.5%で前年の13.3%より2.2%ポイントも上昇している。

低賃金労働者の所得水準の改善は、最低賃金の引き上げのみならず、法律の遵守率を高めることによってもある程度は達成できるはずである。「一を知りて二を知らず」の愚策が行われず、企業や労働者両方の満足度を高める政策が実現されることを強く願うところである。

※注2) 低賃金労働者の割合=賃金(1か月基準)の中央値の2/3未満の雇用者数/全雇用者数)×100

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※7月30日号(7月23日発売)は、「ファクトチェック文在寅」特集。日本が大嫌い? 学生運動上がりの頭でっかち? 日本に強硬な韓国世論が頼り? 日本と対峙して韓国経済を窮地に追い込むリベラル派大統領の知られざる経歴と思考回路に迫ります。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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