コラム

アメリカ大統領選に見る「選挙」の賞味期限

2020年11月28日(土)17時30分

アメリカの選挙は政治献金額の上限撤廃で一大産業に HANNAH MCKAYーREUTERS

<旧社会主義国や途上国は「トランプ敗退」に民主主義の力を感じたかもしれないが、先進国での選挙は暴力を誘発したり単なるセレモニーに堕するなど意味が問われている>

こんな笑い話を聞いた。アメリカの大統領選挙開票のありさまをじっと見ていたロシア人が驚いて言ったそうだ。「たまげた。奴らはマジで票を数えている!」

ロシアでは選挙はあっても、開票結果は事前に決められている、という意味だ。国家主席を選挙で選ぶこともない中国人は何も言わないが、心の中では驚いているに違いない。「強力なリーダーでも、選挙で代えることができるんだ!」と。

だから今回の米大統領選は、旧社会主義国や途上国でボディーブローのようにじわじわと効いて、公正な選挙や民主主義を求める動きにつながるかもしれない。これらの国では、「選挙」はまだ理想の輝きを失っていない。

ところが先進国では、選挙という制度は賞味期限を迎えている。選挙というのは、国内の利益配分に一応の決着をつけて国内を安定させるべきものなのだが、アメリカのように国内がほぼ等分に分かれていると負けた側は納得しない。時には暴力に訴えつつ、抵抗を続ける。途上国や旧社会主義国では、アメリカのNPO(非営利組織)が選挙のたびに開票結果に疑義ありと騒いではレジームチェンジをあおることが多いが、アメリカ人が近頃では同じ手法をほかならぬ自国で使っているから、おかしい。

そしてアメリカの選挙は今や、メディアやPR会社がよってたかって「飯を食う」一大産業になってしまった。2010年に政治献金額の上限が撤廃されて青天井になると、企業や富裕層は政党や政治家を買い占め、政治家はそのカネをメディア広告につぎ込み当選を図る。こうして、11月の大統領と議会選挙では1兆円以上が使われたと推測されている。

日本の選挙は体制への信任投票

選挙=投票に似た行動は、世界中で古くから存在している。しかしそれは貴族や長老など、ごく少人数の場で行われてきたものだ。今のように全ての成人が一票ずつ持って自分たちの代表=代議士や指導者を決めるようになったのは、早くてせいぜい100年前のことである。

しかし、何千万、何億もの人の意見や利益を全部集約して調整することは不可能だ。以前なら、労働組合や業界団体などが票を取りまとめたものだが、彼らはもう力を失った。だから、ばらばらの有権者を差配するには、ポピュリズム、あるいはファシズム=独裁しかない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国人民銀、住宅ローン金利と頭金比率の引き下げを発

ワールド

米の低炭素エネルギー投資1兆ドル減、トランプ氏勝利

ワールド

パレスチナ自治政府のアッバス議長、アラブ諸国に支援

ワールド

中国、地方政府に「妥当な」価格での住宅購入を認める
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story