コラム

駐車場から見えるイギリス人の本性と次の経済危機の予兆

2020年02月04日(火)17時10分

料金説明の表示の前で、内容が理解しづらくて立ち尽くしてる人も見かける mediaphotos/iStock.

<残りの駐車券をタダで人にあげようとするのはいかにもイギリス的だがその裏には反権威的な意図が>

僕の家の真ん前には駐車場があるので、家の窓からでも玄関前に出ても、車が出入りする様子が一日中目に入る。僕は車を運転しないから、車のエチケットを見るのは外国文化を観察するようなもの。その反面、目にした出来事がいかにもイギリス的だと思えることもある。

まず、多くのイギリスのドライバーが(ある意味)利他的であることが分かる。誰かが駐車券を他人にあげている姿は、日常的に目にする。つまり、駐車券にまだ数時間残りがある状態で駐車場を出るとき、自動券売機のところに行って、来たばかりの人にタダであげようとするのだ。

おかげで到着したばかりのラッキーなドライバーは、立ち去るドライバーの厚意により数ポンド分の駐車券を節約できる。残り時間のある駐車券を「売ろう」などとする人はおらず、単に人にあげるか、あるいは誰か次に来る人のために券売機のところに置いていく場合さえある。

恐らくこれは、単なる親切心というだけではなく、「反権威」という側面もあるのだろう。カネを搾り取る組織を懲らしめてやりたい、という思いだ(この場合は、駐車場を運営する地方自治体)。これは、イギリス人ならではの性格だろう。人々は同じように、まだ残りが使える電車乗車券を目立つところに置いていって、鉄道会社も痛めつけてやろうとする。

僕たちは、あまりに大きな力を持っているように感じられる組織に怒りを向け、自分たちが「金づる」にされるのを忌み嫌うのだ。だから僕たちはしばしば、小さな抵抗行動に出る(そしてそんな体験談をしょっちゅう語り合ったりしている)。

僕は家の前にあるこの駐車場を使わないけれど、利用者がまごついたり不便で困ったりしている様子(イギリスでは腹立たしいほど日常的な風景だ)を目にしては、僕もいらついてしまう。この駐車場には以前6台の券売機があったが、いつからか5台になり、そのうち1つは少なくともここ5か月は故障したままだ。そして4台のうちの2つはカード払いのみで現金不可。車の出入りが多いときは、券売機前に行列ができている。

料金説明の表示の前で、内容が理解しづらくて何分も立ち尽くしている人も見かける。しばしば車の中で待っている同乗者が、なんでそんなに時間がかかっているのかと見にくる。そして、2人でなんとか謎を突き止めようとするのだ。

時間帯や曜日、駐車希望時間などによって、実にさまざまな駐車券が存在していて、さらにしょっちゅう変更されている。たとえば、以前は夜間無料だったのに、ある日から午後6時以降に50ペンスのごくわずかな料金が導入された。その変更をはっきり記していなかったから、教会のいつもの夜の礼拝のために駐車場を利用した人々はある晩、突如駐車違反の罰金を科されてあぜんとしていた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 5

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 6

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story