コラム

消費増税が痛い今こそ見直したい、不合理で結局は損な消費行動

2019年10月01日(火)16時00分

人間の消費行動は合理的とはほど遠い yaophotograph/iStock.

<10ポンドを2人で分けるなら? 6000円で買ったチケットが余ったら? 行動経済学で見た人間の行動はかくも合理的とは程遠い>

記者をしていて素晴らしいことは、その道の専門家たちから、興味深い経験や洞察について話を聞けること。一方でささやかな欠点は、彼らが話してくれた面白い話のほんの10%でさえ、2ページの記事にはとても書き切れないことだ。

まさにそんな思いをしたのが、最近、本誌10月8日号(10月1日発売)の「消費増税からマネーを守る 経済超入門」特集で行動経済学の記事を書いたときだった。もっといくつかエピソードを盛り込みたかったのだが、その1つがこれだ。
20191008issue_cover200.jpg
(※編集部注:コリン・ジョイス記者による「消費」について解説した記事「お金がらみの決断は思っている以上に不合理」では、周りに並ぶ商品によって選択をいとも簡単に左右される例や、「決断疲れ」「授かり効果」といった消費行動の謎を解明。なぜ人は時に損な選択をしてしまうのかを探っています。その他「消費増税からマネーを守る 経済超入門」特集では、経済の各分野の専門家たちに税金や貿易、年金、貯蓄、住宅、投資、キャッシュレスなどの経済の仕組みを分かりやすく解説してもらい、「損をしないためにはどうすればいいか」をアドバイスしてもらいました。)

行動経済学に基づいて、より最適な顧客への働き掛け方を企業にアドバイスしている「ビヘイビアラル・ワークス」という会社を経営しているマーク・モロイは、講演の際に時々こんなことをすると僕に話してくれた。聴衆の中から2人を前に呼び、Aには10ポンドを渡して、Bと分けるようにと指示する。Aは分け方を自分の好きなように決められ、Bはそれを受け取ることも拒否することもできる。ただし、Bが拒否すると、2人ともお金は全くもらえなくなる。

伝統的な経済学の理論に従えば、AはBに最低限の1ペニーだけ渡せばいいし、Bはそれを受け取ればいい、なぜなら他の選択肢(何ももらえない)よりはましだからだ。だが、実際には決してそうならない。

どうやら、最もありがちな分け方は1人5ポンドずつというパターンで、そこには利他主義や公正の精神が働いている。だがAが何らかの形で10ポンドを「稼いだ」と告げられていたら、状況は違ってくるのではないだろうか。あるいは2人がステージ上にいるのでなかったら、また違うことになるかもしれない。いずれにせよ興味深いのは、Aがかなり少額(例えば2ポンド以下)を差し出すと、Bは拒否する場合が多いということだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story