コラム

ブレグジット騒動さなかの欧州議会選挙で見えたイギリス人の本音

2019年05月30日(木)15時45分

欧州議会選ではポピュリスト政治家のファラージ(写真中央)率いる「ブレグジット党」が圧勝した Henry Nicholls-REUTERS

<欧州議会選では残留派、離脱派ともにブレグジットに対して意思表示する絶好のチャンスだったのに、彼らは(熱心な残留支持者ですら)やっぱりEUに無関心だった>

イギリスがブレグジット(EU離脱)で政治危機に捕らえられていることは周知の事実だ。そのさなかに欧州議会選挙が行われ、有権者にはこの状況に対する意見を表明する貴重な機会が与えられた。それこそ、今回の投票率が37%と、普段の欧州議会選に比べてかなり高かった理由だ。投票率が低かった1999年の欧州議会選の24%より微妙に高かった前回の2014年の35.6%からもさらに上昇しているが、投票率が高めだった2004年の38.5%よりはやや低い、という結果だ。

僕が言いたいのはもちろん、多くのイギリス人は欧州議会なんかのために投票に行く気などないということ。これらの投票率はどれも、前回2017年のイギリス総選挙の投票率68.8%に遠く及ばない。

イギリスの人々は、自分がヨーロッパ政治に積極的に関与しているなどとは決して思わない。自分の投じた票がEU本部のやり方に何らかの現実的な影響を与えるとも考えていない。彼らは欧州議会が何のためにあるかも理解しておらず、イギリス選出の欧州議会議員が何をしているかも知らなければ、大多数の(おそらく90%ほどの)人々がそもそも自分の地域から選出された欧州議会議員の名も知らない。

彼らが欧州議会選に投票するのは、英政府の対EU政策について、政府に何らかのメッセージを送るためだ。だからこそ先週の欧州議会選の2大勝者はブレグジット党と自由民主党だった――「離脱派」か「残留派」の姿勢をどこよりも明確にしている党だ。

EUには「民主的な側面」はあるけれど、加盟各国の国民にきちんと根を下ろしてこなかったことから「機能する民主的組織」と言うことはできない。各国はそれぞれの理由で、この状態を容認している。たとえばドイツ人は、侵略の過去を償うために自らをヨーロッパに「融合」させることが重要だと考えている。東欧の国々はロシアから身を守るため「西欧」と結束しようとしている。

裕福でない国々は受益者であり、自らが拠出するよりはるかに多くのものをEUから得ている。小さな国々はEUに加盟していなければ到底無理なほどの強い発言力を得ている(たとえばルクセンブルクは、EU一の権力者であるジャンクロード・ユンケル欧州委員会委員長とともに、大きな発言力を持っている)。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E

ビジネス

米国株式市場=ダウ終値で初の4万ドル台、利下げ観測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story