コラム

世界でも特にイギリスでトランプが嫌悪される理由

2018年08月24日(金)17時00分

トランプのすること全てが無意味ともいえない。NATO加盟各国は防衛費の対GDP比率を2%にする目標を掲げているが、達成できていない国もある。その中には、世界で最も裕福な国家の1つでNATOから特に恩恵を受けているはずのドイツも含まれる。ベルギーやスペインの防衛費はといえば、GDPの1%未満だ。だからトランプがさらなる拠出を要求するのも当然だろう(ところでイギリスはこの目標を達成しており、対GDP比だけでなく、総額で見てもドイツ以上の防衛費を拠出している。だから、ドイツなどの国々が「良いヨーロッパ国家」とされる一方で、EU離脱を望むイギリスが「孤立主義者」などと酷評されているのは皮肉なことだ)。

公平を期すために言うと、世界が嫌うトランプの行動のうち一部(不法移民の排除や、イスラム諸国からの移民の制限、アメリカ第一主義、経済成長を生むための早急な減税......など)は、彼が支持者に対して以前からちゃんと公約していたものでもある。「公約を実行する政治家に怒りの声」なんていう見出しがあったら変だろう。

イギリスとアメリカは「共通の言語によって引き裂かれている」というジョークがある。ただのジョークだけど、トランプの場合はこれがぴったり当てはまる。なぜなら、僕たちはトランプの発言を翻訳のフィルターなしに聞き取り、衝撃をそのままに感じられるからだ。

女性の「扱い方」を語ったり、障害のあるジャーナリストを明らかにあざけったりするトランプのコメントを(録音・録画で)ほかの国の人々も耳にしていることは分かっている。でも、僕たちの母国語で話されているだけに、イギリス人にとってこれらはもっとずっとリアルだ。

BBCニュースは時々、(例えば集会などでの)トランプの演説をノーカットで放送することもあり、僕たちイギリス人は彼のナルシシズムと対立相手への(下品な侮辱まみれの)あからさまな敵意を強く感じ取ることができる。それはあまり民度が高くないし、イギリス的な良識の感覚にも反する。自由世界のリーダーにイギリス人が望む資質からも、程遠いものだ。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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