コラム

欧州中央銀行(ECB)が欧州独自の決済システム構築を開始

2020年01月06日(月)12時50分

今後は、EUの欧州委員会の競争総局(Directorate-General for Competition)と対話をしながら進めていくことになる。この部署は、消費者の利益の保護者というべき部署である。銀行は、消費者の利益のために、いかにデータ保護や取引の安全の調和を行うかを、この部署に示さなければいけない。

安全性を追求すると、莫大なコストがかかる可能性がある。

欧州情報筋は、フランス産の第3世代原発を例に出して、懸念を表明している。福島原発事故のあと、フランス原子力安全局とEUは、安全基準を大幅に引き上げたために費用がかさみにかさみ、巨額化した費用を回収できずに停滞を余儀なくされているのである。

それでも、データ保護は極めて重要なのだ。

アメリカはスノーデン事件で信用に傷がついたとはいえ、民主主義国家である。アメリカの覇権は焦りをもたらすが、同盟国だからまだ良いほうである。中国の決済システムの覇権は、独裁体制である共産党と結びついていると思わせ、まったく別の不安をかきたてる。

勝つために妥協の用意も

このように大きな困難があるものの、銀行側は、国際的な戦いで大敗者にならないように、多くを妥協する準備ができているという。

「欧州の銀行が団結したとして、さらに商人や消費者の説得が待っています」と、ある計画関係者筋は言う。「全員が繋がっています。すべての欧州の関係者の合意なくしては、何も成し遂げられないでしょう」

約2年前、2017年の後半からは、EUでは軍事方面でも、アメリカと分離していくのかと思わせる動きが起こっている。そして金融方面もしかりである。

パックス・アメリカーナが、非民主主義国家である中国によって重大な挑戦を受ける今の時代に、アメリカとEU、中国という巨人の間に立って、日本は今後どういう舵取りを迫られるのか。自ら大きなデザインの国家戦略を描く必要があるだろう。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、今週の米経済指標に注目

ワールド

原油価格上昇、米中で需要改善の兆し

ワールド

米、ガザ「大量虐殺」と見なさず ラファ侵攻は誤り=

ワールド

中韓外相が会談、「困難」でも安定追求 日中韓首脳会
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 8

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 9

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story