コラム

文在寅大統領は何がしたいのか、なぜ韓国はGSOMIAで苦しむか

2019年11月29日(金)14時30分

中国・ロシアが進める「ユーラシアを一つの経済圏」とする経済戦略を結びつけたといえる。この中では決して「朝鮮半島の統一」などとは言っていない。しかし、「朝鮮半島の平和」と「未来の経済領土」拡張という2つの目標を一括で達成するための布石だということだ。

<参考記事>朴大統領、「ユーラシア・イニシアチブ」提案...外交・経済を一括した新戦略(中央日報・日本語版)

文在寅大統領も、この構想を引き継いでいる。ユーラシアという概念で、南北朝鮮の融和と交流を図ることである。

前に述べたように、今年2019年6月「上海協力機構」のサミットで、中国はアメリカに対抗するような、多国間貿易協定を提唱した。ロシアだけではなく、インドをも巻き込もうとしているのだ(実際は色々ある)。

このような一連の動きに、韓国が提唱している「ユーラシア・イニシアチブ」は包括されているのである。

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CSIS/Reconnecting Asia/South Korea's Infrastructure Visionより


朴前大統領も、文大統領も、積極的にプーチン大統領と接触をはかって、この構想を進めようという意欲を見せている。中国相手では、また別の問題がからんでくるのだが。

(ちなみに、この「韓国から北朝鮮を通ってユーラシアへ鉄道をつなげる」という話は、元トーメン・ソウル支店長の百瀬格氏が、ハングルで書いて韓国で出版した本に、そういう提案を書いていたように記憶している。日本語版有り)。

文大統領は何がしたかったのか

色々言われるが、文在寅大統領は何がしたかったのだろうか。

答えは簡単である。

彼は、二つに引き裂かれた祖国を一つにしたかったのだ。

文大統領の両親は、朝鮮戦争で北から南に逃れてきた避難民である。戦争収容所で生活していたこともある。子供のころ、大変貧しい日々の中、彼はカトリック教会に小さなバケツをもって定期的に訪れ、アメリカ人が配布する小麦粉、コーン、粉ミルクの配布を受けていたという。まるで戦後の日本のようだ。 これは、後に彼がキリスト教に改宗した理由の一つになっている。

数年前出版された自叙伝では「暗黒の時代から、貧困や荒れ果てた国を経験しており、疎外された人々や貧しい人々を忘れることは決してありません」と語っているという。

ベルリンの壁が崩壊して30年、欧州は融和して一つのEUをつくっているというのに、東アジアの状況は完全に膠着している。

今「半島統一」とは叫べないが、大きなユーラシアという枠組みの中で、鉄道をつなぎ、人々の交流や経済活動を奨励していくなかで、北朝鮮を融和していきたかったのだ。韓国一国ではどうしようもできないから、アメリカ一辺倒では膠着したままだから、ロシア・中国・その他中央アジアも加わった大きな大きな枠組みのなかで、二つに引き裂かれた祖国を融解していきたかったのだ。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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