コラム

優等生政治家ブルームバーグに足りないもの

2019年12月03日(火)18時00分

ブルームバーグの出馬を「ついに」と見るか「今さら」と見るか JOSHUA ROBERTS-REUTERS

<優れたリーダーシップで「ニューヨーク400年の歴史上最高の市長」と評され、その中道のスタンスから本選でトランプに勝てる可能性が高いといわれるが>

民主主義を信じる人々は、民意と指導者の力量が一致してほしいと期待する。一致しなければ、凡人や扇動家、あるいは暴君が国を率いることになりかねない。

しかし、ドナルド・トランプ米大統領は約3年間で、腐敗と大言壮語といかさまが民主主義の理想に勝ることと、あらゆる社会にとって最大の危機は、その社会固有の矛盾であることを証明した。

アメリカの連邦主義は、地方の白人の保守派の有権者が、都会の人種的に多様な穏健派や進歩主義の有権者より、常に優勢であるという構図をつくり出した。アメリカの有権者の3分の2は毎朝、不満とともに目覚めている。世界で9番目の富豪マイケル・ブルームバーグが、民主党から来年の米大統領選に出馬すると聞いて(28人目の出馬宣言だ)、まず疑念や怒りが湧いてくるのも無理はない。

とはいえ、ブルームバーグがニューヨークの400年の歴史の中で最高の市長だったことや、優れたリーダーシップの持ち主であることは、多くの識者が認めている。さらに重要なのは、本選で勝てる希望がある、ということだ。

成功する有能な政治指導者は、複雑な組織をマネジメントして、不可欠だが矛盾する目的(例えば、軍事と経済)を両立させるという経験が必要だ。党派対立の圧力に負けず、個人的な利益を優先させたい誘惑に打ち勝つ資質や、本当に重要で実現可能な問題を見極める判断力も求められる。

その全てを兼ね備える指導者が、合理主義者が理想とする理想国家の君主「哲人王」だ。ただし、民主主義において、政治的なリーダーシップと政治的な手段を切り離すことは不可能だ。だからこそ、気が付けばソロモン王ではなくトランプがアメリカを率いている。

大統領候補者として理性的過ぎ?

ブルームバーグは市長として成功したし、少なくとも平均的な人格と判断力を持ち合わせているようだ。政治スキルに関しては、指導者として専制的になりがちだと言われている。もっとも、さまざまな欠点も選挙運動に数十億ドルをつぎ込めば帳消しになる。

ブルームバーグを推す人々に言わせれば、民主党候補として最も重要なのは、トランプに勝てることだ。エリザベス・ウォーレン上院議員やバーニー・サンダース上院議員など左寄りの候補者より、穏健派のほうが本選で勝てる可能性は高い。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story